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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



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遮光ブラインドの隙間から細く朝日が射し込んで来る。伏せた長い睫毛を微かに震わせ、凪がそっと瞼を持ち上げた。すぐ目の前にはしなやかな男の体躯があり、両腕でしっかりと抱き込まれている事を自覚すると、顔を持ち上げた。傍では光秀が穏やかな寝息を立てていて、その様に胸が淡く色付く。何度見てもこうして安心しきった様子の光秀を見ると、堪らなく幸福を感じる。

辺りが静かな事から、まだ子供達は眠っているのだろうか。時刻を確かめようにも光秀によってがっしりと抱きしめられている為、身動きが取れない。肌蹴た着流しの合わせから覗く均整の取れた体躯は暖かく、そのぬくもりに心が安らいだ。

(もう少し寝かせてあげたいな)

神経を張り巡らせる事もなく、誰も光秀を害さない世で迎える穏やかな朝だ。贅沢な朝のひとときをもう少しだけ堪能していたい。

(………ところで、私って一体いつ寝たんだっけ……?)

穏やかな寝顔を見て和んでいる中、ふと思い立った様子で自身の格好を見下ろした。光秀と揃いの羽織こそ脱いではいるが、着流しはしっかりと着込んでいる状態だ。乱れていないところを見ると、またしても夫に甲斐甲斐しくされたという事なのか。昨夜の記憶が無い訳ではない為、アルコールで記憶が飛んだのではないという事は、単に光秀へ愛されている途中で意識を飛ばしたのだろう。間際の記憶は正直ないが、しっかりと焼き付いている光秀の妖艶な姿を思い出すと、思わず顔を覆いたい衝動に駆られる。

(あ、朝からなんて事思い出すの私……!駄目駄目っ、朝から不健全…!)

俯きながら、あまりの恥ずかしさに顔や首筋を赤く染めていると、不意に正面から堪え切れないとばかりに、くすくすと控えめな笑いが聞こえて来た。

「!!!?」

はっとした様子で眸を丸くすると彼女が顔を上げる。そうすれば、先程まで穏やかな寝息を立てていた筈の男が、起床直後の雰囲気とは到底思えない様子で笑みを浮かべている。眇めた金色の眸に揶揄の色が滲んでいるのを見て取り、凪が口をはくはくと小さく動かした。

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