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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



きっと、光秀には凪が何を言おうとしているのかなど、すべてお見通しなのだろう。分かっているくせに、口元へ刻んだ綺麗な笑みを深めるばかりの相手へ、彼女が込み上げる羞恥と共に視線を彷徨わせる。不意に視界の端へ、飲みかけのXYZが映り込んだ。光秀自身は、凪が自分のものなのではなく、自分が凪のものなのだと言うけれど、もう随分と前から─────凪の中で自分自身は、光秀のものなのだ。

「今夜はやっぱり、特別な夜だから─────…私も、眠るのが惜しいです」

幾年経とうとも、自分は【永遠にあなたのもの】なのだという想いを込めて、凪が囁く。下唇をなぞる指先を離し、光秀がまるで応えるようにXYZを飲み干した。形の良い唇にすべてを飲み干されて、一滴すら余す事なく受け入れられたそれに、凪の肌が熱を帯びる。空になったカクテルグラスがカウンターの上に置かれたと同時、光秀の腕が凪の腰を強(したた)かに抱いた。

「お前の口からそんな可愛い言葉が聞けるとは、口説いた甲斐があったな」
「口説くって、カクテルの事ですか……?」
「それもあるが……子らが寝た後、言っただろう」

唇が戯れのように重なり合う。片手を白い着流しへ触れさせ、凪がそこをきゅっと握った。口付けの合間に紡がれた音を耳にし、濡れた漆黒の眸を凪が緩慢に瞬かせる。既に半分以上なくなっているベルベットハンマーを見やると、光秀が長い銀糸を伏せた。唇を彩るのは穏やかな笑みだというのに、腰を抱く腕の強さは力強い。節立った長い指が、誘うように薄い寝間着越しのくびれをなぞる。

「ここから先は、愛しい妻を可愛がるひとときにしたい」
「!そ、それはお酒を酌み交わす方の意味だって光秀さんが……」
「【変な意味】でも構わないとも言った筈だ」

色香の滲む甘い囁き声が、凪の鼓膜を蕩けさせていく。その声で囁かれるだけで鼓動が騒ぎ、肌が火照る。凪をからかう為の単なる建前であったと告げられ、彼女がわざと怒ったような表情を浮かべた。

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