❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
(愛らしいな、本当に)
幸せそうに微笑むその姿を目にするだけで、どれほどの月日を重ねても尚、愛熱に焦がれる。そう思えばなるほど、確かに自分にはお誂え向きな言葉かもしれないと、心の中で零した。
「互いに意図せず、熱烈な愛の告白を選んでいたという訳か」
「もう夫婦になって随分経つのに、なんか変な感じですね」
「そうでもない」
恥ずかしそうに、けれども嬉しさを隠しきれない様子で凪がはにかむ。確かに普通は十年も経てば、互いの関係に変化が表れてもおかしくはないだろう。恋仲とはとうに違う、夫婦は男女ではなく、もはや家族だと断じる者も少なくはない。だが、生憎とそんな世間の一般論など、光秀には当てはまらなかった。いつも、どの瞬間も凪を想っている。子供達の母として、最愛の妻として、常に彼女へ焦がれている。この感情に、想いには果てがない。
「幾年(いくとせ)経とうと、お前への愛おしさが尽きる事はない」
【今宵もあなたを想う】──────そのカクテル言葉は、光秀が日々募らせる想いを代弁してくれているかのようだ。穏やかな声色で、愛の滲む言葉を紡がれる。それだけで、胸の奥がふわふわと柔らかなもので包まれたような感覚に陥った。光秀はふんわりとした見目が凪に似合いだと選んでくれたが、ベルベットは、柔らかなという意味を持つ。柔らかくて優しい口当たりの割に、度数が高い事から付けられたそれは、凪にとってはまさに光秀のようであった。
(私の心を柔らかく優しく包み込んでくれるのに、いつも胸をどきどき騒がせる。たった一言で、こんなにも心が喜びで満たされるのは、後にも先にもきっと光秀さんだけ)
頬に触れていた指先が、まるでそうする事が自然だとでも言わんばかりに彼女の唇へ滑った。アルコールで微かに湿った唇は、紅を差していないにも関わらず蠱惑的な色を帯びている。ひんやり冷たい男の指の感触に凪の唇が小さくわななき、音を零した。
「さっき、明日は早くに出掛けなきゃだから、ちゃんと寝ないとって言いましたけど」
「ああ」