❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
酒の由来だけでなく、酒そのものに意味を持たせるとは考えたものだ、と内心感心している男の鼓膜を、尻すぼみになった凪の声が打つ。暖かな小さい手の甲をそっと撫でた光秀が、促すように相槌を挟んだ。
「ああ」
じわ、と鮮やかな色に頬がいっそう染め上げられる。何度見ても飽きないその色合いに眸を眇め、光秀が無言のままで彼女を見つめた。一度だけきゅっと唇を引き結んだ後、凪がぽつりと告げる。
「……【永遠にあなたのもの】っていう意味があるみたい、です」
元々XYZはローマ字の最後の三つである事から、これ以上ない、最高のといった意味が込められているという。愛を告白する折や恋人達が気持ちを改めるシーンなどで贈られるらしいそれを、これといった意図せず光秀へ贈ってしまったという事実に照れたのだろう。光秀が手元にあるカクテルグラスへ視線を注いだ。彼女の手ずから作られたその旨酒が、更に愛を捧げるような意味を得ていると考えるだけで無性に愛おしさが湧き上がる。指の腹でそっとグラスの表面へ触れた後、男が凪の方へ顔を向けた。
「それはそれは、随分と熱烈だな」
「わざと選んだ訳じゃないですからね……!本当に知らなかったんですから」
凪からこの上ない愛を注がれたような気がして、つい綻びそうになった口元を別の理由にすり替えて笑い、わざとからかいの色を乗せた。光秀が押し隠した本心に気付けなかった凪がむっと眉根を寄せ、必死に言い募って来る。それが意図しない偶然だというならば、きっとこの旨酒は選ばれるべくして選ばれた、そんな気がする、などとは口が裂けても気恥ずかしくて言えやしないが。
「分かっている。何年共に居ると思っているんだ」
くつくつと肩を揺らして小さく笑い、光秀がさも当たり前のように告げる。さらりと零されたその一言に、凪の胸の奥がきゅんと高鳴りを帯びた。光秀から紡がれるそれが、決して当たり前に甘受出来るものではないと知っているからこそ、尊さもひとしおなのだ。