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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



「疑問は解消されたのか、凪」
「えっ……あ、そうです、ね?」

隣へ座る彼女へと顔を寄せ、耳朶付近で囁くように問えば、びくりと身を跳ねさせた凪がぎこちない返答を紡ぐ。そのまま誤魔化すようにグラスを手にし、ぐいっと半分程呷った。耳朶だけでなく、首筋や寝間着の袖口から覗く手までほんのり朱を帯びている様を認めると、光秀が彼女の横顔を観察するよう見つめる。原因は不明だが、何やらカクテルの由来を調べて頬を染めたにしては、少々赤みが常より強い気がした。曰く、子供達を産んでから少し酒に弱くなったらしい彼女へ気遣うような声をかける。

「随分と肌が赤いようだが、久々に飲んで酔いが早く回ったか」
「い、いえ……確かに飲みやすいから調子に乗ったら駄目ですけど、まだ酔った訳ではないです」
「ではこの赤い頬や首筋には、別の理由があるという事か」
「うう……」

気遣わしげな男の声に気付き、凪が慌てて首を振った。確かに身体は少しずつ暖まって来ているが、まだ醜態を晒す程意識が混濁している訳ではない。本人は否定しているものの、恐らく多少は酔いも回っているのだろうと考えた光秀が、ピンチョスをひとつ摘んで口元へ差し出した。断る事なくそれを食べた様を見やり、男が確信を衝くよう問いかけると、小さく呻いた彼女が視線を冊子へ向ける。ちらりと再度光秀を見た後、観念した様子でぽつぽつと話し始めた。

「実はカクテルって、名前の由来とかに基づいたカクテル言葉っていうものがあってですね……」
「それはまた随分と粋な事だな」
「慣れてる人だとそのカクテル言葉を意識して、相手にお酒を贈ったりとかするんです。それで、私が光秀さんに贈ったXYZなんですけど……」

気恥ずかしそうに眉尻を下げた困り顔の凪が、光秀にも分かりやすいように説明した。元々一を聞けば百も千も理解するような男故に、彼女が言わんとしている意味に関しては大まか把握したらしい。

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