❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「ミニトマトっていうんですよ。酸っぱいやつもあるんですけど、これはよく熟してそうですね」
「お前も食べてみるといい」
ハムもチーズも柔らかい為、光秀が好む系統だろう。案外甘党な光臣の話題を持ち出すと、凪も同意して頷いた。真っ赤に熟して艷やかな色合いを放つミニトマトの酸味は、どうやら控えめらしい。ピンを皿の上に置いた凪に次いで、光秀が手を伸ばした。そうして正方形の小さな料理を彼女の唇に近付ける。再び男の手ずから料理を頂き、それを堪能した。
(ハムとチーズってなんでこんなに合うんだろ……美味しい。あとミニトマトも甘くて食べやすいな。臣くんもそうだけど、鴇くんも好きそう)
柔らかなハムとチーズの組み合わせは安定だ。濃厚だが後味がさっぱりしていて口に残らないのも嬉しい。グラスを傾ける凪の横顔を穏やかに眺めていた光秀が、彼女の手にあるカクテルを目にしてふと問いかけた。
「俺が選んだかくてるとやらに名があるように、お前が選んでくれたものにも名が付けられているのか?」
「ありますよ。XYZっていいます」
「珍妙な響きの名だ」
「乱世には馴染みがないですからね。由来は……私もそこまで詳しくないのでちょっと分からないですけど…」
名前というより、色合いや雰囲気に惹かれたとあって詳しい説明を読み込んでいなかった凪が、ふと傍にあった冊子へ手を伸ばす。XYZが載っているページを再び開くと、由来などが書かれている欄へ目を通した。そこでとある文言に気付き、凪がじわりと頬を染める。
(っ………!)
その顕著な変化に光秀が気付かぬ訳もなく、微かに金色の双眸を瞬かせ、凪の顔を軽く覗き込んだ。彼女の視線は光秀の傍にある白いカクテルと同じような写真が載ったページへ縫い留められている。
(………やはり文字が読めないというのは厄介だな)
日中にも脳裏を過ぎったその一言を内心零し、光秀が片手をそっと伸ばした。冊子の傍へ添えられたままになっていた彼女の手へ自身のそれを重ね、優しく握り込む。