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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



綺麗にペーストを塗ったそれを、そっと差し出される。礼を言いつつ口を開くと彼の手ずからカナッペを食べた。こんがり焼かれたトーストなど食べる機会はそうそう無い。マッシュルームに刻んだ玉ねぎ、アンチョビ、バターや塩胡椒などを加えたペーストは程よい塩味で実に深みのある味わいだ。トーストだけでなく、パスタにも合いそうである。

(美味しい…!トーストもほんのり甘くてマッシュルームのペーストとよく合うなあ。こういうの彼方が好きそう)

綻んだ彼女の面持ちを見れば、感想など聞くまでもない。くすりと小さく笑いを零した光秀が、カクテルグラスを傾けて唇を微かに湿らせた。こうして凪と晩酌するのは実にひと月以上ぶりだ。物音ひとつない夜は静か過ぎるが、嫌な静寂ではない。平穏を享受する穏やかな夜だ。

「その小さな料理は何だ」
「えっと、チーズとハムのピンチョスです。ハムは豚肉なんですけど……光秀さん大丈夫ですか?」
「俺が神仏や教えに関心が無い事は良く知っているだろう?」

光秀が問いかけて来たのはチーズとハムが交互に重なって層を作る、正方形のピンチョスだった。一番上にはミニトマトが半分に切られたものが白いピンで刺されていて、見た目にも愛らしい一品だ。乱世では現代で今でこそ一般的とされている家畜類の肉を食さないという習慣がある。凪が気遣って問いかけるも、そういった信心深さを持ち合わせている訳でない光秀が鷹揚に笑った。

「確かに……じゃあいい機会なので食べてみてください。どうぞ」
「ああ」

凪が差し出した料理を光秀が食べる。トマトは彼方によれば江戸時代以降に入って来る野菜らしいので、実質彼は初めて食べる味だ。子供達がすっかり寝入っている所為か、普段より素直に料理を口にしてくれる光秀へ、凪が胸をきゅんと高鳴らせる。こうしてふとした瞬間、あの隙の無い光秀が肩の力を抜いてくれるひとときが堪らなく愛おしい。

「どうですか……?」
「柔らかいな。上の赤い野菜は臣が好みそうな味だ」

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