❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
自然と引き戻されたひんやり冷たい男の節立った手がすぐに恋しくなるなど、相当だ。誤魔化すようにして話題を酒の肴へと切り替え、綺麗に盛り付けられた真っ白な皿を移動させた。
「お前の愛らしい姿を見るので手一杯だったものでな。それに、やはり俺だけ先に手をつけるのは味気ないだろう」
「うう……反論を封じる言葉選びが上手ですね、相変わらず……」
「なに、お前を想えばこそ自然と口をついて出るだけだ」
食にあまり興味がないというのも一理あるが、凪の用意が終わるまで待っていてくれたのだという事は、聞かずとも分かる。そんな事を言われてしまえば、これ以上二の句など紡げる筈もない。さらりと言ってのける光秀の言葉がその場凌ぎの軽いものだったら、何かしら反撃出来たかもしれないが、彼が凪に向ける言葉はこういう時、大抵紛れもない本心だから困る。
「じゃあ一緒に食べましょう。これはどうですか?このマッシュルームペーストを塗るんですけど、ちょっと塩っ気があってお酒には合うかも。……はい、どうぞ」
「ありがとう」
こんがりと焼かれた食べやすい一口大のトーストに、マッシュルームペーストをバターナイフで満遍なく塗る。それを光秀へ差し出せば、男は凪の手首へ自身の手を添え、口へとそのまま運ばせた。さく、と小気味良い音が奏でられ、凪が思わず微笑む。
「塩だな」
「あれ、塗り過ぎました……?」
「いや、酒の肴ならばこの位が程良いだろう。どれ、貸してみろ」
如何せんマッシュルームのペーストなど食べた事が無いだろうから、表現出来て見知った味わいの観点のみだったのだろう。凪が首を捻ると光秀が否定し、彼女が手にしていたバターナイフを受け取って同じく器用にトーストへペーストを塗る。光秀がトーストに何かを塗っていると、優雅なディナーを彷彿とさせるのだから不思議だ。
「凪」
「ありがとうございます」