❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
笑顔で勧めて来る凪を見やり、短い相槌を打った男が頬杖をついたまま片手を伸ばした。グラスに向かうかと思いきや、長くしなやかな指はそれを通り過ぎて彼女の細い顎を捉え、そっと引き寄せる。
「……んっ、」
そうして唇をあまりにも自然に奪われた。軽く重なっただけのそれが、唇の隙間を割る事で奥まで深まる。爽やかなレモンの味わいが舌先に残り、凪の伏せた瞼を震わせた。文字通り味わうかの如く口内を蹂躙した男の柔らかな舌が、凪のそれと絡む。表面をこすり合わせ、敏感な凪の上顎を舌の先でくすぐると、ぞくぞくした感覚が腰から這い上がった。
「……ふ、ぁ……っ」
ゆっくりと口内を味わった光秀が唇を解放してやると、舌先同士を繋ぐ銀の糸がダークオレンジのブラケットに照らされる。ぷつりと音も無く切れたそれを名残惜しむかの如く、男が彼女の下唇を軽く舐めた。甘い痺れにも似た感覚が身体の芯を薄っすら火照らせる。顎を捉えた指先で輪郭をするりと撫でた後、光秀が金色の双眸を眇めて愛おしそうに告げる。
「確かに、こちらの方がある意味美味だな」
「も、もう……これじゃ味、ほとんど分からないですよ……」
「そうでもない。お前が俺へ選んでくれたものも、中々の味わいだっただろう?」
「っ……、」
掠れた声で囁かれ、凪の鼓動がどきりと跳ねた。照れ隠しも兼ねて文句めいた事を言うと、手にしたままであったグラスを置く。ブランデーが既に回ったのか、あるいは光秀によって酔いを回されたのか、ほんのり熱く火照った頬の熱を楽しみながら男が片手でそこを包んだ。間近で覗き込まれ、再び鼓動が忙しなくなる。含みのある物言いはつい先刻の口付けを容易に彷彿とさせ、凪が短く息を詰まらせた。口内にはベルベットハンマーの甘い口当たりの他、光秀によってもたらされたレモンの味わいが残っている気がして、唇をきゅっと引き結ぶ。
「か、カクテルだけじゃなくておつまみもどうぞ。先に食べてていいって言ったのに、光秀さん全然手つけないから……」