• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



彼女に促されるまま柔らかなそこへ腰を下ろし、頷いてみせると凪が驚いた様を露わに双眼を瞬かせた。確かに彼女の言う通り、凪は乱世の常識に慣れるまで色々と苦労していた節がある。九兵衛に手伝って貰ったとはいえ、慣れない厨(くりや)で凪が初めて自分に茶を煎れてくれた事を思い出した光秀は、瞼を伏せて緩く肩を竦めた。

「利便性が上がるのならば、難しい事はそうない」
「光秀さんの理解力が桁外れなだけな気がするんだけど…とにかく、分からない事があったら訊いてくださいね」

笑顔を浮かべて紡いで来る凪の姿は酷く楽しげである。理由など容易に見当がつくが、繋いだままであった片手へそっと力を込め、隣に座る凪の顔を軽く覗き込んだ。

「随分と楽しそうだな、凪」
「そ、そんな事ないです…!えーと…寝る前にシャワー…湯浴みしますか?寝間着はホテルの浴衣があるので、着替えは心配ないと思うんですけど」

双眼を眇めて問いかけると、図星を衝かれたらしい凪の耳朶がじわりと染まる。慌てた様子で光秀の視線から逃れるよう顔を逸らし、やがてちらりと黒々した眸を向けて問われると、光秀はそれ以上の追及を止めて鷹揚に頷いた。

「そうだな、お前も疲れただろう。先に入って来るといい」
「光秀さんの方が慣れない現代で疲れてるだろうし、先に入ってください。私はその後で大丈夫ですよ」
「俺の事は気にするな」
「駄目です。現代は私の方が慣れてるんですから、慣れてない人優先なんです」

凪へ先に湯浴みを勧めると、彼女は首を左右に振って否定する。ワームホールに巻き込まれたという点においては同じだが、女の身である凪の方が、蒸し暑さも相俟って早く汗を流したいだろうと考えた光秀が自身を後回しにするような発言をするも、ここは現代だからと頑として譲る気配のない彼女が言い切った。殊の外頑固である凪の様子を見て、おそらく譲らないだろうなと判断した光秀は、問答をするよりも早く済ませてしまった方が良いかと考え、仕方ないとばかりに瞼を伏せた。

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp