❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
そう言いながらシェーカーを準備した後、先程も用いたホワイトキュラソーをメジャーカップへ適量注いだ。次いで生クリーム、ブランデー、最後にカルーアリキュールを加えて蓋をする。先程と同じ要領でシェーキングしてよく混ぜ合わせると、用意したカクテルグラスへそっと注いだ。途端、ブランデーのほんのり甘い香りと、コーヒーリキュールの香りが鼻腔を楽しませる。
「これで完成です」
「見事なものだな」
完成したそれは生クリームが加えられている事でふんわりクリーミーな見た目であり、薄っすらと乳白色の中にカフェオレ色が滲んでいる。写真の方がもう少しクリームがきめ細やかに混ざっている印象だが、初めてにしては十分だろう。自身の分のカクテルが用意出来た事で、凪がカウンターから回り込んで光秀の隣へ座った。ステムを持ち、彼女が光秀のグラスへとそれを近付ける。そうすれば何をしたいのかを察し、男も合わせるようにグラスを手にした。
「乾杯⋯…覚えていてくれたんですね」
「お前と交わした言葉は一言たりとも忘れはしない」
「光秀さんなら、そうなんだって素直に思えます」
凪が告げると同時、小さいながらも小気味好い涼やかな音が静寂の中に響く。乱世でする事は滅多にないが、だいぶ昔に乾杯の意味を伝えたそれを覚えていてくれたのだろう。幸せそうに面持ちを綻ばせて凪がグラスをそっと傾ける。見た目通りクリーミーで甘いそれは、デザートカクテルと呼ばれるに相応しいまろやかな味わいだ。ただしブランデーが適量入っている事もあり、飲みやすさに反して思いのほか度数が高いのもまた、ベルベットハンマーの特徴と言える。
「飲みやすくて美味しい……!」
飲み口から既にパンチの利いているカクテルとは異なり、上品な味わい深さが楽しめるそれは実に凪好みの味だ。双眸を瞠った彼女がグラスを見ると、光秀へ手にしているものを差し出す。
「光秀さんも飲んでみてください。光秀さんのとはまた違った味わいですよ」
「そうか」