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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



「美味いな」
「良かった……!本当はバーテンダーさんっていうお酒を作るプロ……えっと、専門の人が作った方が絶対美味しいと思うんですけど、二人きりの方が落ち着くと思って、今回は呼ばなかったんです」
「何処の誰とも知らない者が作った酒より、お前が慣れないながらも懸命に作ってくれたものの方が味わい深い」

およそアルコール度数二十五度のそれは、レモンの爽やかさの所為もあって然程きつめの印象を与えないが、喉を滑り落ちて行く際に微かな熱を残していく。日ノ本が安定するに連れて貿易もいっそう盛んになり、南蛮の酒が市場にも普通に出回りつつあるとあって、乱世でも幾度か変わった酒を飲んで来たが、そのいずれとも異なる味わいだ。ラムとホワイトキュラソーの味わい深いそれは、凪が作ってくれたとう事実を加えたお陰でこの上ない旨酒となる。

(光秀さん喜んでくれてるみたいで良かった……!見た目も案外悪くない出来だし、初めて作ったけど意外と楽しいかも)

金色の眸が嬉しそうな色を帯びて綻ぶ様を正面で見つめ、凪が安堵に胸を撫で下ろした。彼の言葉が偽りのない本心だという事は、それこそ表情や眸を見れば分かるというものだ。特に光秀の場合、目が口程にものを語るのである。凪がひと目見て気に入ったその理由────何処か清廉さを思わせる真白な色合いも、案外上手い具合に出来たのではと自画自賛した。満足げな様を見せる彼女を見つめ、グラスを再び軽く傾けた男が、それを静かに置く。

「お前は飲まないのか?俺一人では味気ない」
「じゃあ私もいただこうかな……あ、そうだ!」

誘うような光秀の眼差しに促され、凪が小さく頷いた。そこでふと何事か思い至った様子で軽く手を叩き、様々な種類のカクテルレシピが載っている冊子を光秀の方へと見えやすいようにして置く。

「光秀さんが私の分のお酒、選んでください。リキュールとかの名前は分からないと思うので、見た目とかの印象でいいですよ」
「お前に似合いの酒か……そうだな」

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