❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
出来るだけ氷がシェーカーの内側へ触れないよう気遣いつつ、数度シェーカーを振る。凪の何処となく覚束ない素振りを見やり、光秀が微笑ましそうに口元を綻ばせた。自分を喜ばせようと奮闘する様は、何度経験しても男の目には愛らしく見える。やがて振り終えたそれを下ろした凪が、そっと蓋を開けてカクテルグラスの中へ静かに注いだ。刹那、搾りたてのレモンの爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
(レモンジュースでもいいって書いてあったけど、生搾りにして正解だったみたい。すごくいい香り……!)
「どうぞ、光秀さんっぽいなって思って作ってみました」
完成したカクテルを光秀の前へと静かに差し出し、凪が嬉しそうに告げた。真っ白なカクテルは混ざり気が一切なく、光秀を彷彿とさせる。冊子で見かけた折に、このカクテルを光秀へ作ってあげたいと衝動的に思わしめた程、凪がひと目で気に入ったものだ。
「向こうで飲むものとは香りが随分異なるな。先程必死に搾っていた果実か」
カクテルグラスのステムを手にし、光秀が真っ白なカクテルを僅かに近付ける。爽やかな柑橘系の香りが鼻腔をくすぐり、男が眸を穏やかに眇めた。乱世ではあまり嗅ぐ事のないそれの香りを惹き立てる為、彼女が懸命にスクイーザーで半分に切ったレモンを搾っていた様を思い出し、微かに口元を綻ばせた。長らくそのようなものを使用していなかった為、感覚が鈍っていたのだろう。軽々出来ると思いきや、案外そうではなかった事実に彼女が肩を僅かに落とした後、困り顔で反論する。
「スクイーザーって意外と力要るんですね……何か久々だから感覚忘れてました……」
「あれ以上難儀なようであれば、思わず手を出していたところだ」
「それは駄目です……!私が一人で作った事にならないじゃないですか!」
「そう言うと思って、大人しく見守っていただろう」
自分の為、と健気にしてくれている事を知っている以上、光秀とて下手な手出しは出来ない。やがて、せっかく慣れないだろうながらも作ってくれたカクテルをぬるくさせる訳にもいかないと、男がグラスをそっと傾けた。