❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
ルームサービスとして注文したのは、マッシュルームのカナッペ、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、チーズとハムのピンチョスである。いずれも乱世では目にする事のない料理である為、好奇心旺盛な光鴇辺りが興味を示しそうなものばかりだ。少量ずつしか盛り付けられていないとはいえ、夜に二人で食べるには少々持て余してしまう。冷蔵庫に入れて残しておこうと凪が告げると、光秀が鷹揚に頷いた。
「じゃあお酒の用意するので、光秀さんはおつまみ食べながらちょっと待っててくださいね」
「……ん?」
光秀の前にナプキンやカトラリー、料理が盛り付けられた皿を用意した後で凪がカウンターの向こう側へと回り込む。てっきり隣へ座るものと思っていた男が微かに金色の眸を瞠った。
「お前は座らないのか」
「作り終わったらそっちに行きますけど、準備が終わるまではここです」
「酒を用意するだけかと思ったが、どうやら違うらしいな」
「確かに、乱世では中々出来ない事かもですね」
凪が何処となく楽しそうに面持ちを緩める。ただ酒を瓶からグラスに注ぐという意味の用意かと考えていたらしい光秀が首を緩く傾げてみせた。さすがに何も見ないままで初心者がカクテルを作れる筈もない為、子供達と光秀が湯浴み中に見ていたカクテルブックを手にすると、目当てのページを開く。
凪が果たしてどんな事をしてくれるのか、愉しげな様子で光秀がゆるりと頬杖をついた。寝間着は家族全員分、乱世から持ち込んでいた為、男の格好は見慣れた白い着流しに肩へかけた羽織姿だ。同様に凪も淡い藤色の寝間着の上に、光秀と揃いの羽織へ袖を通している。格好だけは乱世で馴染みのあるものだというのに、シックな雰囲気を演出するダークオレンジのブラケットやスポットライトが男の銀糸を照らすと、過分な色気が滲むのだから目のやり場に困る。
(光秀さんってこういう大人な雰囲気、凄く似合うよね。格好いい……って、見惚れてる場合じゃなかった……!まずはカクテル作り用の道具を用意して……)