❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
(また墓穴……!!)
苦しい言い訳をしたところで、光秀の揶揄めいた眼差しは逸らされない。輪郭を戯れのように撫でていた指がふと、くいと彼女の顎を捉えて自身の方へと向けさせる。ぶつかり合った眼差しへ愛おしさを込め、男が低い声で囁いた。
「もっとも、俺としては【変な意味】でも構わないが」
「……!!」
顎をすくい上げていたひんやりした指先が、つつ、と凪の白い喉を辿る。色気を煽るような触れ方に鼓動が忙しなく跳ね、首元の白い素肌が淡く染まった。視界の端には硝子張りの壁の向こうに広がる、京都の美しい夜景が映っている。だがそんなものなど今や凪の眼中には入らない。誘うような眼差しが凪の無防備な唇をなぞり、けぶる色気と共に注がれる。
(う、このままじゃ光秀さんのペースに持っていかれる…!)
抗い難い感覚に心の中で声を上げ、凪がとにかく何かを口にしようとしたその時、室内へ控えめな音量の呼び鈴が鳴り響いた。びくりと肩を小さく跳ねさせ、凪が条件反射のように立ち上がる。この刻限に部屋を訪ねて来るとあれば、予め時間指定をしておいたルームサービスに違いない。
(た、助かった……!)
「ちょっと出て来ますね」
「お前が手配したものか?」
「はい、お酒のおつまみにと思ってお願いしておいたんです」
「……俺が出よう。お前はここに居るといい」
ある意味空気を変えてくれたルームサービスに感謝しつつ、内心安堵の心地で凪が告げる。入り口側へと振り返り、些か警戒を覗かせた様子で光秀が問いかけた。ここまでくればわざわざ隠す必要もないと凪が頷くと、男が静かに立ち上がる。乱世での癖なのか、凪本人へ来客対応をさせたがらない光秀がそのままドアの方へ向かった。
(乱世でも現代でも、光秀さんの心配性と過保護は相変わらずだなあ)