❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
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二人の息子達を寝室で寝かしつけた後、凪と光秀は再びソファーへと戻った。ちなみにキッチンやバーカウンター、ソファーなどがある空間と寝室まではそこそこの距離があり、扉で仕切られている事もあって然程音は気にならない間取りだ。子供達が眠り、久々に夫婦二人だけのゆるやかな刻を過ごせるとあって、凪の心も安堵に満ちていた。六日に渡る非番を取得する為、光秀は日夜激務をこなして来たのだ。生活サイクルが合わない事などここしばらくは当たり前で、時折夜が完全に更ける前に帰宅したとしても、すぐに文机で雑務を片付けていた。
(でも現代なら光秀さんが文机に溜まったお仕事をする事も、緊急の招集を受ける事もない。本当の意味で安らげる)
明日も出掛ける為、完全な休暇とは少々言い難いかもしれないが、それでも乱世に比べれば余程平和で穏やかな刻に変わりはない。ここしばらくの疲れが今回の旅行によって少しでも癒やされればいいと考えつつ、凪は早速親子三人が湯浴み中に考案した作戦へ打って出る事にした。
「光秀さん、良かったら少し飲みませんか?」
「ああ、子らも寝た事だ。ここから先は、お前を可愛がるひとときにするとしよう」
「な、何かその言い方は語弊が……」
晩酌の誘いを珍しくも凪から持ちかけると、光秀が同意を示す。ソファーの背もたれへ身を預けながら足を組み替え、するりと指の背で彼女の頬から輪郭を辿るように撫でた。ダウンライトの控えめな照明が男の銀糸に注ぎ、薄い影を肌へと落とす。乱世の夜よりもずっと明るいそこで改めて目にすると、光秀の端正な様がより顕著になって鼓動が騒いだ。
色気の滲む目元が眇められ、視線がゆるりと流されれば、恥ずかしそうに凪が顔を逸らす。十年以上連れ添っている夫へ未だにときめいている事を誤魔化すようなそれへ、光秀が首をわざとらしく傾げた。
「おやおや、俺は可愛い妻と酒を酌み交わすという意味で言っただけだが、一体何を想像したのやら」
「へ、変な意味とかじゃないですからね……!」