❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「さて、こうしている内にも仔栗鼠の瞼がくっつきそうだ。ゆっくりおやすみ」
「鴇くん、おやすみ」
求めるような眼差しに応えるよう、光秀が身を屈める。片手をベッドへついた状態で唇を寄せ、幼子のふっくらした頬へ唇を触れさせた。次いで凪に場所を譲ってやると、彼女も幼子のそれへ慈しみのこもった口付けを贈る。途端、満足げに笑みを浮かべた光鴇がとろりと眠そうな金色の双眸を閉ざした。すぐに寝入ってしまったらしい子供へ笑いを零し、光秀が潜めた声で光臣へ声をかける。
「お前もご所望なら、応えてやらない事もないが」
「お、俺は結構です…!おやすみなさい」
「じゃあ勝手にしちゃおうっ」
「は、母上…!?」
如何にも揶揄混じりの眼差しを送って来た光秀へ、光臣が反論を込めて首を緩く振った。隣で弟が眠っているとあり、皆それぞれ控えた声量だ。そんな中、反対側へ回り込んだ凪が光臣の反応を窺う事なく口付けを贈る。金色の切れ長な眸を瞠り、恥ずかしそうに頬を朱へ染めた少年が驚きの声を上げるも、母は何食わぬ顔である。その様を目にして光秀が妙案とばかりに口角を持ち上げ、同じく光臣の方へと回り込んだ。下手に動けば弟を起こしてしまいかねない為、少年に逃げ場はない。銀糸を微かに揺らした男が光臣へ身を寄せ、同じく頬へと口付けを落とす。
「っ………、おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ、臣くん」
恥ずかしそうにしながらも、何処か嬉しそうな気配を覗かせる光臣が掛け布団を引き上げて顔を隠す。灯りを消した後、微笑ましそうに顔を見合わせた二人は、小さな寝息がひとつ聞こえて来る寝室を後にしたのだった。