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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



子供の体力は無尽蔵とはよく言ったものだが、限界値というものは何事にも存在するのである。ごろごろと転がっていた光鴇はやがてその動きをひたりと止め、うつ伏せの状態で再びうつらうつらし始めた。

「うつ伏せで寝る癖は乳飲み子の頃から変わらないな」
「臣くんもそうでしたね。そういうところ、兄弟って似るのかな」
「俺はこんなに寝相悪くないですよ……」
「とき、ねんね……」
「取り敢えず隣へ移動させるとしよう。これでは臣が眠れない」
「ありがとうございます、光秀さん」

広々したベッドの中央を見事に陣取っている幼子を見やり、光秀がそっと抱き上げて横へずらした。大人でもゆうに眠れる程の広さのそれは、光鴇の寝相が多少悪くとも問題ない程の幅である。凪が適度な位置へと真っ白なカバーに包まれた枕を移動させ、光秀が幼子の頭を仰向けの状態で置いた。ベッドの反対側へと回り込み、光臣も弟の隣へ潜り込む。柔らかくてしなやかなスプリングが利いたベッドは、当然ながら畳の上へ褥を敷いた感覚とはまるで異なる。軽いが柔らかい掛け布団を凪が二人へかけてやると、寝ぼけ眼の光鴇が甘えるように父母を見た。

「とき、おやすみのちゅってしないとねんね、できない」
「ほう……?何処かの誰かに似て随分と甘えたのようだ」
「わ、私そういうの言った事ないですからね…!?」

おやすみの口付けをねだる幼子を前に、父が片眉を持ち上げて含みのある調子で告げる。はっとした様子で凪が慌てて否定を紡ぐと、明らかに意地の悪い金色の眸が彼女へ流された。口元などはすっかり可笑しそうに笑みを深めており、弟の隣で寝転がっている光臣がつい苦笑する。

「誰もお前がとは言っていないだろう。妙な事を言う妻だ」

(墓穴……!!)

かっと耳朶や首筋に熱が集まり、凪が恥ずかしそうに唇を引き結ぶ。そんな彼女の表情を見て光秀が指の背で火照った頬をひと撫でした後、光鴇へ向き直った。しっかり掛け布団を肩までかけている光鴇は、寝ぼけ眼のままで父母をじっと見つめている。

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