❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
思考に沈みかけた自身を叱咤し、凪が心の内で声を上げる。光秀や子供達に心配かけまいと意識を切り替えようとした時、彼女の横顔を見つめていた光秀が穏やかな声で切り出した。
「凪、お前が案じるような事は何もない」
はっとした様子で眸を瞠り、凪が顔を上げる。すぐ傍に穏やかな色を湛えた金色の眸がある事に気付き、互いの視線が交わり合った。膝上に置かれている凪の片手を大きな手で包み込み、優しく握り込む。湯浴み上がりである所為なのか、男のそれは普段よりもほんのり温かくて無性に愛おしさがこみ上げた。
「言っただろう。多くの者達へ理解されずともお前達が本当の俺を知っていれば、それでいい」
お前が俺を想ってくれる気持ちはよく分かっているつもりだがな、と付け足した光秀が柔らかな語調で述べた。そこには偽りや取り繕いなど一切なく、彼の言葉が紛う事無き本心なのだと思い知らされる。本人がそう言っているならば、これ以上凪が言い募る訳にもいかない。眉尻を下げたままで小さく頷くと、その様子を見ていた光臣が軽く身を覗かせる形で母を見た。
「母上、御安心ください。先程のてれびとやら、父上は信長様に次ぐ二位とやらだったのですよ」
「ちちうえ、にばん!」
「そっか……二位…って、え!?二位!?」
光秀の口振りから、然程順位は高くないと思い込んでいた凪は、衝撃の告白に一度納得しかけてぎょっと目を丸くした。隣では幼子が笑顔で指を二本立て、己の事のように嬉しそうな様子を見せている。勢いを付けて光秀の方を振り仰ぐと、してやったりといった雰囲気で口角を緩く持ち上げていた。ようするにちょっとした意地悪をされたのだ。
「も、もう光秀さん…!酷いですよ…!」
「おやおや、それは心外だ。俺は本心を告げたまでなんだが」
むっと眉根を寄せた凪が文句を言うと、男が肩を竦めてさらりとにべも無く言ってのける。本心は本心だったのだろうが、あの雰囲気と言い草では勘違いされてもおかしくはない。