❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「えっ…!?いや…えっと…そう、ですね?」
さも当然であるかの如く紡がれた言葉に、凪が些か驚いた風で声を上げた後、彼女は曖昧に首を捻って頷く。別に今更別々の部屋でなければ、などと言う事はないが何となく友人の手前気まずい。凪の心情を分かっているのか否か、二人のやり取りを耳にしていた彼方はひらりと片手を振ってまったく気にした素振りもなく言い切る。
「あ、私の事はお構いなく。明智さんと恋人同士って聞いた時点で、そうなるかなーって思ってたよ」
「彼方殿は物分りが良いな」
「それほどでも。ていうか明智さん、凪がうんって言うまでいじめる気だったでしょ」
「まさか。愛しい連れ合いを困らせるつもりは毛頭ない。凪がどうしても俺に独り寝をしろと言うのなら、大人しく従うとしよう」
ここまでのやり取りで光秀の性格は大まか把握していた彼方は、凪と光秀を見比べた後で男に向かって半眼を投げる。如何にも胡散臭そうな眼差しを恋仲の友人に向けられた光秀は、小さく笑って肩を竦めた。あくまでも余裕を一切崩さない相手に、凪へくるりと向き直った彼方が親指をくいっと後ろ向きに指して腰に片手をあてがい、告げる。
「凪、試しに嫌です、独り寝してくださいって言ってみたら?」
「後が怖いよ…!!」
スパッと言い切った彼方に対し、身を竦ませて首を勢いよく左右へ振った凪が否定した。ここでそんな事を言おうものならば、寝て起きた後が恐ろしい。別に害するような事をされる訳ではないが、確実に意地悪は三割増しくらいになるだろう。割と真剣な凪の反応を目の当たりにし、光秀のやり口を垣間見た彼女がふーん、とますます半眼になると、向けていた親指を下ろして腕を組んだ。そうして光秀がふと凪の手を取り、指先を絡めるようにして繋ぐ。あまりの自然な所作に突っ込む間すらなかった事へ驚いた彼方を余所に、男は凪を背後から片腕に抱き締めるようにして耳朶へ唇を寄せた。