第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

「それは俺も同感だ」
「だよね―、本能寺で織田信長…様助けたの凄くない？むしろ何でここに織田信長……様居ないわけ」

最初は半信半疑で聞いていた内容だが、改めて思い起こすと、とんでもなくファンタスティックな体験を親友はしている事になる。同じ歴史好きの佐助がおもむろに頷く様に彼方も一度頷き、凪へ視線を向けた。時折信長の名の後に妙な間があるのは、秀吉による呼称チェックが入る為である。

「信長様がこちらの世へ我々と共に来ていたら、また事態は変わっていただろうな」
「変わったものとか好きですもんね、信長様。五百年後の話すると凄く興味持って聞いてくれますし」
「いいなー！天下人会いたかった！何でワームホールとかっての、安土城の天主に出現しなかったわけ」

光秀が瞼を伏せて小さく笑った。それはそれで面白そうだが、などと付け加える男に対し、凪が苦笑しながら頷いた。珍しいもの、新しいものを好む信長は、凪が話す五百年後の話を驚くべき頭脳で解釈し、理解する。その頭の回転たるや恐ろしいものがあり、さすがは天下人と言わざるを得ないといったところだろう。二人の会話を耳にして彼方が声を上げた。花押の時といい、今といい、妙に信長の話題への食いつきがいい彼方へ、佐助がもしかしてと声をかける。

「彼方さんは信長様推し…？」
「そう！やっぱ武将といえば織田信長……様でしょ！」
「よく分かってるじゃないか彼方。信長様は本当に素晴らしい御方だ。御側でお仕え出来る事を光栄に思う」
「やれやれ…いつもながら、秀吉の御館様崇拝にはさしもの俺も舌を巻く」

佐助の言葉に勢い良く頷いた彼方に対し、信長を褒めるような物言いへ秀吉が大きく頷いた。うんうんと何度も頷く相手に対し、光秀が肩を竦めていつもの軽口を叩く。ちらりと視線を寄越して来た秀吉が、眉間の皺を深めた。

「光秀、お前は逆に信長様への忠義が足りない。五百年後の世に生きる彼方が信長様の偉大さを理解しているのに、今あの御方にお仕えしているお前がそんな事じゃあ示しがつかないだろ」
「またその話か。いつも通り代わり映えしないお小言だな、秀吉。五百年の時を越えたのだから、もっと違う小言が聞けるかと期待したんだが」