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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



「ただこれにはひとつ問題がある。今回のワームホール発生場所はほぼ九十九パーセントの確率で本能寺の見込みだ。つまり安土への往復移動で三日は余裕を見た方がいい。そうなると現代に旅行へ行く二泊三日の日程を含めて、計六日の非番が必要になる計算だ。それを確保出来るかが一番の肝になると思う」

(……そっか、そうだよね。じゃあやっぱりちょっと難しいかも。私の我儘の為に光秀さんへ無理はさせたくないし……)

凪の調薬室に関しては曲直瀬道三(まなせどうさん)に相談すればある程度融通が利くが、ただでさえ多忙な身の上の光秀が突然そんな非番を取れるかどうかは保証がない。何より、自分の所為で光秀へ負担をかけたくないと考えた凪が、やはり今回は諦めようと口を開きかけたところで、光秀がしっとりと潤った声を発する。

「それについては問題無い。何せあと半月後の話だ。今から公務調整などどうとでも出来る」
「でも光秀さん、いいんですか……?元々忙しいのにお仕事調整するの、大変なんじゃ……」

光秀の発言へ凪が相手を振り仰ぎ、心配そうに眉尻を下げながら見つめた。凪達が乱世へタイムスリップして来た頃より、日ノ本は少しだけ平穏な世へと前進したが、まだ光秀が目指す世には遠い。やるべき事は山のようにあると告げている光秀の大変さを分かっているからこそ、無理はさせたくないと凪が案じれば、男は穏やかな眼差しを向けて落ち着いた声色で言い切る。

「愛しい妻や子らと共に過ごす為だ。大変などと思う訳がない」

何処までも家族を想ってくれる光秀に、凪の胸の奥が暖かな感情で満たされて行く。そこまで言ってくれている相手に、これ以上遠慮を重ねるのは却って失礼だ。

自身の誕生日を祝われるというより、誕生日を特別な形で祝いたがっている凪や子供達の気持ちを汲んで、佐助の提案に乗る姿勢を見せてくれたのだという事は分かっていた。金色の眸を暫しじっと見つめた凪が、やがて穏やかな笑みを浮かべてしっかりと頷く。

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