❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第4章 掌中の珠 前編
「相変わらず仲が良さそうで安心した」
「話の腰を折って済まないな、佐助殿。続けてくれ」
隣に座る凪の頬をひと撫でした後、改めて話の筋を戻した光秀が佐助へ視線を流す。それを受けて一度頷いた後、佐助が本題を切り出した。
「もし凪さんが五百年後の現代に一度帰りたいっていうなら一緒にどうかなと思って、その意思確認に来たんだ」
「現代かあ、臣くん鴇くんが生まれてからは全然帰れてないもんね……うーん……」
(帰って色々物を補充したい気もするし、でも十月の初旬っていうと光秀さんのお誕生日の準備とかもあるしなあ……)
佐助からの誘いを受け、凪がどうしたものかと思案を巡らせた。前回現代へ戻ったのは二人の息子が生まれる前の事であり、あれからそこそこの年月が経っている。幸か不幸か、乱世と現代での時間の流れが異なる関係で、実際現代へ戻っても乱世で過ごした時間程は日が経っている訳ではないが、五百年後の世が今はどうなっているのかという興味は多少なりともあった。
だが、ワームホールが開くらしいという日取りが神無月の初旬である以上、確実に譲れないものがある。十月四日は光秀の誕生日だ。毎年顔馴染みの武将達や家族で光秀を祝っているとあり、容易に頷けない主な理由がそこにあった。
「凪、滅多にない機会だ。俺に気を遣う事はない」
「そういう訳にはいきませんよ。子供達を置いてくのも可哀想ですし…」
「そうか、神無月の初旬と言えば光秀さんの生まれ日でしたね」
「ああ、毎年十分過ぎる程に祝ってもらっている。子らも話せば理解するだろう」
悩む凪を目にして、光秀が穏やかな声で告げる。彼女が何故すぐに行きたいと言わないのか、そんな事はお見通しという訳だ。だが大切な夫の誕生日を祝わないという選択肢は凪にそもそも存在しなかった。加えて、子供達を置いて自分だけ行くというのも気が引ける。