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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



幼子なりの気遣い故、無粋な事は言わず、ひとまず納得してみせると、子供用に用意した小さな巾着袋を手渡す。

「じゃあ独楽と紐、ここに入れて持っていこっか」
「うん、いれる」

喜々とした様子で巾着を受け取り、その中へ独楽と紐を入れた幼子が口をきゅっと締めて満足気な様を浮かべた。玩具の件は納得してくれたらしいと安堵して凪が再び荷造りを再開すると、開けっ放しであった襖の向こうから、今度は光秀によくよく容貌が似ている少年がやって来る。

「母上、俺の方は支度が済みました。何か手伝う事はありますか?」
「あ、臣くん!支度終わったんだね。ならちょっとお手伝いしてもらおうかな。そこの着物、少し小さめに畳み直してくれる?」
「はい、お安い御用です」

光臣の方へ振り返った凪が悩む素振りを見せ、周囲へ広げている着物へ視線を向けると手伝ってくれるようお願いした。特に嫌な顔ひとつせず、少年が微かに笑みを浮かべて頷くと、後ろ手に襖を閉ざして示されたものの傍へ正座する。早速母に言われた事へ取り掛かった兄の姿を目にし、自己主張するように幼子が片手を挙げた。

「ときもおてつだい、する!」
「じゃあ鴇くんはここの玩具、ちゃんと片付けて来てくれるかな?」
「わかった、みっただにかたづけてもらう!」
「え」

両手に独楽以外の玩具をごそっと抱えた幼子が、襖を再び開けっ放しにしたままで立ち去って行く後ろ姿を見やり、凪が困ったように眉尻を下げて苦笑した。光忠を己の家臣だと認識している光鴇が、よく分からない些末な用事で五宿老の一人である男を呼び出すのは日常茶飯事だが、母としては色々心配にならない事もない。

(光忠さんには後で御礼を言うとして……こっちが終わったら光秀さんの荷造りしなきゃ!)

既に数えで十三歳となる光臣ならば大抵の事は一人で出来てしまうが、弟の光鴇はそうもいかない。よって自分の分の荷造りと共に済ませてしまおうと考えた訳である。光秀も普段は割と自身で支度を済ませてしまうのだが、彼は現在安土城にて絶賛公務中だ。

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