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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 掌中の珠 前編



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澄み渡った青々しい空が、いっそう高く感じられる神無月の初旬。光秀の御殿の一室では、せっせと支度に勤しむ凪の姿があった。淡い水色の布の上に、自分と次男である光鴇の着替えを畳んで置いた彼女は、周りに広げた荷物をぐるりと見回して首を軽く捻る。その拍子、結い上げた髪に飾った水色桔梗の簪が揺れ、しゃらと玉飾りが微かな音を奏でた。

「えーと、襦袢と足袋と着替え用の着物と……あ、袴よりは着流しの方がいいかなあ」

忘れ物がないよう注意を払い、手にした衣服類を丁寧に積み重ねていき、思い立った様子で立ち上がった。箪笥の中から子供用の藍色の着流しと帯を取り出した彼女が、再び元の位置に戻って布の上に置いて行く。そうして暫く荷物の準備をしていると、不意に閉ざされた襖が開いて、そこから幼子の姿が覗いた。両手に何やら物を抱えている光鴇が、母の元までやって来て座る。

「ははうえ、とき、にもつもってきた」
「ん…?もしかしてこれ、持って行くの?」
「おもちゃ、もってく」

抱えていたそれは幼子が常日頃遊んでいる玩具達であり、お気に入りと称しているものだ。独楽(こま)にヨーヨー、けん玉と、お馴染みのそれへ視線を向け、凪が小さく笑った。

「持っていくのはいいけど、どれかひとつにしようね。忘れたり失くしたりしたら大変だよ?」
「ひとつ……じゃあこれにする。けんだまはみっただにおいていくね」
「なんで光忠さんにけん玉……?」

厳選した玩具の中から更に厳選するよう勧められた光鴇が、難しい顔で手元の玩具を見つめた。暫し悩んだ末、独楽を選んだらしい幼子がそれを持ち上げる。残ったものの内、けん玉を光忠へ置いて行くという光鴇へ疑問を露わにすれば、幼子が当然とばかりに言い切った。

「おるすばん、さみしいからけんだまであそんでてっていう」
「な、なるほど……」

これを私にどうしろと?などと言いながら顔を顰める光忠の姿が一瞬脳裏へ思い浮かび、凪がそっと苦笑した。

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