❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「ん…?」
「…光秀さん、花押って何ですか?」
片手を口元へあてがい、光秀の耳元でこそりと彼女が問いかけると、男はああ、と短い相槌を打った。
「間違いなくその人物が記したものである事を証明する為の印だ。偽造の対策として用いられる。実際に筆で書くものである事から、書判(かきはん)とも呼ばれているな」
「ま、凄く簡単に言うと、現代でいうところのサインみたいなもんよ」
「へえ…信長様のそれが本物だって事で信じてくれたの?」
「うんうん、信じる。ていうかこの書状何なら欲しいもん」
凪の疑問を噛み砕いて教えてくれた光秀に付け加える形で、更に彼方が添える。サインのようなものと言われれば凪も納得だ。思わぬ形で彼方の信用を得る事が出来、安堵したものの念の為問いを重ねれば、やはり友人は意気揚々と頷いた。書状を見て心無しか眸を輝かせている様を視界の片隅に映し、光秀がくつりと笑って肩を竦める。
「だそうだ、秀吉。書状の一通くらいくれてやってもいいんじゃないか。どの道、同じようなものを何通も持っているだろう」
「信長様の書状を軽々しく扱うな。……だがまあそうだな、彼方にはこれだけ世話になった事だ。じゃあそれはお前にやる。信長様からの大事な書状だ。くれぐれも大切に扱えよ」
「マジ!?やった!ありがとう、家宝にする」
信長の書状が欲しいという彼方の何気ない言い分に対し、光秀がさり気なく口添えしてやると、秀吉は最初こそ渋面を浮かべて男へ反論するも、この現状を助けてくれた彼方に対しては色々と思うところがあるのか、最終的には仕方無さそうに笑って書状を譲る事を告げた。織田信長直筆の書状を図らずしも手に入れる事が出来た彼方は心底嬉しそうに声を上げ、丁寧に折り畳む。そんな様を視界に入れ、佐助がぽつりと呟きを零しながら家康へ視線を向けた。
「信長様直筆の書状か、羨ましいな」
「……なんで俺の方見て言うわけ」
(佐助くん家康推しだもんね…)