❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
くすりと意味深な笑みを浮かべて包み込んだ彼女の手と自らのそれを光秀が絡め、意地悪く囁く。以前手習いの最中、光秀に【あけちみつひで】と書き損じの紙に書いていた事を目撃された事を思い出し、凪の耳朶が紅く染まった。恥ずかしそうに文句を言う凪へ瞼を伏せて笑う光秀の姿を半眼で見た彼方がぽつりと零す。彼女の目から見て、どう考えても一部の男達は凪に甘すぎる。彼方の率直な感想を拾い上げた三成が、きらきらと輝かんばかりの天使の如く清らかな笑顔で言い切るものだから、そういうものなのだろうと強制的に自らを納得させた彼方は改めて手にしていた書状へ視線を落とし、最後に押されていた花押(かおう)に目をひん剥いた。
「こ、これ…!!!」
「どうかした?彼方さん」
「これ…織田信長の花押!!!」
「こら彼方、恐れ多くも信長様を呼び捨てにするんじゃない」
両手で書状を持った手をふるりと震わせて発した言葉に佐助が反応する。果たしてその書状はそんなに重大なものだったのかと考えたのを余所に、彼方は嬉々とした声を上げた。現代人あるあるで、有名人や偉人等を呼び捨てにする癖をそのまま残しつつ信長の名を告げた彼方を、秀吉が窘める。秀吉の注意など耳に入っていないのか、彼方は大層興奮した様子で顔を上げた。
「この紙質といい、墨の感じといい、これってマジもんの書状だよね!?信長の花押マジヤバいんだけど!好き…!オッケー信じるわ」
「凄いな…花押ひとつで現代人を納得させる信長様か。さすがは天下人だ」
「だからちゃんと敬意を込めて信長様とお呼びしろ」
信長の花押を見た途端に目の色が変わった彼方が、これまで佐助や凪が話した内容をすべて信じると言い切る。信長の影響力たるや凄まじいとしみじみ実感したかの如く、佐助が呟きを零した。むしろ信長の花押を一発で見抜き、尚且つ乱世の書状を読み解く事が出来る彼方も一般的に見れば中々凄いのだが、そこは歴史好きだという事実で納得した。秀吉がやはり信長に対する呼称を改めるよう眉根を寄せる中、凪が隣に居る光秀の袖をそっと引く。