❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
「素直ついでに、もうひとつ質問をしておくとしよう」
「え、な、なんですか急に……!?」
凪の本心を耳にし、酷く安堵している己の存在に、ふとした瞬間気付かされる。内心を覆い隠すよう笑みを浮かべ切り返すと、これまでのやり取りでさすがに色々と学んだらしい凪が、警戒の色を示した。
「そう身構えるな。先程と同じ質問だ」
「同じって……」
「眠るまで、何をしようか」
「!!!?」
素直に求める事が出来ない凪へ、わざと投げかけた質問の答えなど聞くまでもない。吐息に乗せた問いに、猫目を零れんばかりに瞠った娘が目元だけでなく、頬までもを鮮やかな色へ染める。
(愛らしいな)
視線を彷徨わせ、羞恥から来る逡巡を見せた後、凪が視線を合わせて来た。黒い大きな眸は、先程と同じく揺れている。俺を求めて微かな微熱を灯し、眼差しを注いで来る様が堪らない。衿を掴む凪の華奢な指先から躊躇いが失われ、明確な意思をもって俺へ身を微かに寄せた。
「……口付け、したいです」
「【なにもしない】んじゃなかったのか?」
「光秀さんの意地悪」
本心から零れた質問の答えに意地悪で返した後、不服そうに引き結ばれた柔らかな唇を奪う。数度啄み、角度を変えて甘い熱を交わした。
世の中は九部が十部。志乃姫へああ言って聞かせはしたが、俺も大概欲が深い。ただ思うさま注ぐだけでいいと言い聞かせていたこの愛を、凪が受け入れ、同じものを返してくれただけで、既に俺の奥底へ秘めていた望みは叶ったも同然だ。九部が十部、その言葉通り満たされている筈だというのに。
(お前と居ると、欲がいっそう深まる)
もっと俺自身を求めて欲しいと願ってしまう。それこそ、十部などで満たされる事なく千も万も越え、凪だけに湧く過ぎたる欲を腹の奥底に秘めているなど、この娘は知りもしないだろう。
唇を離し、どちらからともなく吐息を零した。濡れた淡い桜色のそれにひとつ、触れるだけの口付けを贈り、この胸に抱き込む。身体の力を抜き、俺へ身を委ねて来る凪が頬を軽く寄せて囁いた。