❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
過保護だ何だと言われても、それが俺なりの愛し方である以上、この先もそれを変えるつもりはない。
「それにしても、光秀さんって本当に器用ですね」
「…ん?」
これ以上志乃姫の話題に触れるようならば、俺の方から話をすり替えようと考えていたが、その必要はなかったようだ。切り出された話題に短い相槌を打つと、凪が小さくはにかんだ。
「さっき飛ばした文の事です。紙飛行機っていうんですけど、折り方、よく分かったなあと思って」
「文を開く際に、折られているものを真似ただけの事だ」
「まさか紙飛行機に紙飛行機で返してくれるとは思いませんでした」
「お気に召したのなら何よりだな」
あの珍妙な形の文はどうやら【かみひこうき】と呼ぶらしい。ひこうきとやらが一体何なのかは分からないが、やはり五百年後の知識といった認識で間違いはないようだ。腰を抱いていた腕を伸ばし、片手で髪を梳く。湯浴みを済ませ、既に乾いた髪は指通りが良く、触れていて飽きる事が無い。心地良さそうに凪が黒々した猫目を眇めた。
「さっき光秀さんから貰った紙飛行機の文、その形のままで取っておこうかなあ。というか、よく考えたら光秀さんが紙飛行機折ってるって、ちょっと可愛いですね」
「ほう……?」
可笑しそうに鈴を転がすような笑い声を零した娘の言い草に、眸を眇めて口角を持ち上げる。髪を梳いていた手を後頭部へ回し、軽く身を乗り出すようにして笑みを形どる唇を奪った。柔らかな感触は吸い付くようで、そのまま吸い寄せられるかの如く、数度触れ合いを繰り返す。
「……んっ」
鼻にかかった甘い声が凪の唇から零れ、隙間から覗かせた舌先で軽く下唇を舐めた後、口付けを止める。咄嗟に閉ざした瞼を緩慢に持ち上げた凪の、仄かに甘く目元を染めた愛らしい姿が間近に映り込んだ。
「お前を前にすると、つい何もしないという約束を破ってしまうな」
「約束とか、そんな大袈裟な事じゃないですけど……」
「さて、今度こそ大人しく約束を守り、眠るとしよう」