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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



暗がりに満たされたそこで、凪の手を取り立ち上がらせた。

「せっかくお前から誘ってくれた事だ。お望み通り、横になるとしよう」
「な、何もしませんからね…!?」
「分かっている。だが」

俺の意地悪を真に受けているらしい凪が、目元を朱に染めた名残を見せつつ言い募る。毛を逆立てて威嚇している仔猫のような反応に小さく肩を揺らして笑い、褥へ身を横たえた。互いに向き合う形で横になり、上掛けの着物を身体へかけてやりながら肘をついた片手で側頭部を支え、眸を眇める。

「眠りに就く前のひとときに、語らうくらいは許されるだろう?」
「それなら大歓迎です。でも、夜更しは駄目ですよ?光秀さん、今日もお仕事で疲れてるんですから」
「然程疲れるような事はしていない。そういうお前はどうなんだ」

凪の腰に腕を回し、軽く抱き寄せた。薄い寝間着に包まれた暖かな身体が触れ合い、酷く心地良い。凪が手製の枕に頭を預けて笑いかけて来た。特に遠方の視察や情勢を探るといった任務ではなかったとあり、言葉通り疲れるような事はこれといって無い。光忠の報告では、あれ以降特に問題は何もなかったと聞いているが、少なからず気疲れしただろうと問いかけてみると、思いの他凪の表情は明るいものだった。

「ここ最近に比べたらかなりのんびり在庫作りとか出来ましたよ。光忠さんも手伝ってくれましたし、何より薬草好きな女の子と会えたので良い事がいっぱいです」
「…そうか」

(今後、志乃姫が凪にどう接するか分からない以上、余計な事は何も言うまい)

志乃姫が家康に恋慕を抱いている事も、凪が気付いている様子は無かった。調薬室での一件も自身の不注意だと思っているこの娘に、あちらが今後どのように出て来るか分からないならば、離れの棟(むね)の件も含め、何も知らせるつもりはない。恐らく凪自身が一件に勘付かない限り、今日あった一連の出来事を俺の口から語る事は無いだろう。

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