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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



【ねむくなくても、よこになるだけでつかれはとれますよ!あと、いつのまにかねむれるかもしれません。だから、きょうはもうやすみましょう!】

(あの娘、余程俺に睡眠を取らせたいらしい)

俺の身が健康体になる事を心底願っている凪からしてみれば、睡眠は重要な要素のひとつなのだろう。それは重々承知している為、否定するつもりはない。文から顔を上げると、凪が寝ましょうと言わんばかりに小さく頷いていた。あまりに真面目な表情をしていた為、ついくつりと喉の奥から笑いが零れる。俺の身を思い、必死に説得を試みる健気な連れ合いが愛らしく、つい意地悪が筆先に乗った。

【みをよこたえるだけでひろうがとれるとは、いいことをきいた。ならば、ねむるまでなにをしようか】

薄闇の中を飛んだ文が凪の元へ届けられる。それを拾い上げ、開いた娘の目元が夜の気配を色濃く帯びた暗がりでも分かる程、鮮やかな朱に染まった。相変わらず文机前で頬杖をつく俺を見やり、羞恥を堪えるかの如く眉根を寄せる。物言いたげな唇を引き結び、眼差しだけで抗議の意を訴えかけて来た娘へ、悠然と笑って見せた。おもむろに立ち上がり、再び文机の方へ向かう。

返事を書きに行ったのだろうと見当をつけ、凪から贈られた文を綺麗に折り畳むと、戸棚の中へ収めている文箱(ふばこ)へしまった。小脇へ置いていた書簡を片付け、燭台に灯る火を吹き消す。そうして羽織りの衿を軽く押さえながら立ち上がり、行灯の明かりを落とした。

(文でのやり取りも悪くはないが、傍に居るならばやはりお前の声が聞きたい)

足音も無く凪の部屋へ向かう。中途半端な隙間だけが開いている襖を開くと、文机前で文をしたためていた凪が驚いた様子で顔を上げた。

「み、光秀さん……!!?」

文机上には、書きかけの文がある。後ろ手に襖を閉ざし、【なにもしま】と中途半端なところで止まっているのを視界に収めた。筆をそっと取り上げて硯箱へ置いた後、燭台の明かりを吹き消す。室内を照らしている行灯の明かりは、寝支度を整えた段階で消されていたのだろう。

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