❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
共に下城出来る事を喜んでいたあの娘の為、無駄な刻をかけず済ませてしまうに尽きるというものだ。一度緩慢に瞬きをした後、視線を姫の手元へ向ける。俺の目線が何処へ向かっているかを察し、二人が緊迫感に強張る喉で、音も無く息を呑んだ。
「飲まれないのですか、姫」
「っ……と、殿方の前で大口を開けるなどというはしたない真似、とても出来ません。光秀様がお帰りになられた後で服用致しますので、どうぞ私の事はご心配なく」
「おやおや、それこそ杞憂というものです」
手元の薬包紙から、視線を志乃姫本人へ向けた。あからさまに肩を跳ねさせた姫が並べる言い訳を聞き、瞼を伏せて鼻先で笑いを零す。
「姫が仮にどのような行為をなさっても、さして気にはなりません」
「なっ……!!?」
「如何に明智様と言えど、口が過ぎます…!!」
「何分、嘘のつけない性分なもので」
別に興味の無い者が何をしていようと、言葉通り気になりはしない。深窓(しんそう)の姫君に幻想を抱いている訳でも無し、人は誰しも物を入れる際には口を開くものだ。ただ思った事を述べたまでだが、自尊心の高い志乃姫と御付きの女中にとっては不服であったらしい。非難を浴びせられ、肩を竦めて適度に流す。これまで男にこのような扱いを受けた事など無いのだろう、姫は青褪めさせていた表情を今度は怒りで赤くし、語気荒く言い返して来た。
「光秀様が気になさらなくとも、私は気に致します。ですから後程、服用させていただくと言っておりますでしょう…!」
俺がこうして姿を見せる前、居室で上げていた金切り声に近付いて来た態度へ眸を眇める。薄っすらと口元に笑みを乗せ、わざと囁くように声量を落とした。
「そうまでして頑なに服用を拒むとは、何か理由がおありか。例えば……─────」
俺が言わんとしている事を察し、御付きの女中の眸に薄っすらと涙が滲む。志乃姫が薬包紙を握り締める力を強めた事を視界の端に捉え、静かに核心を衝いた。
「その薬を毒薬とすり替えようとしていた、など」
「っ!」