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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



姫の手には、凪が先程盆へ乗せて運んでいた薬包紙がしっかりと握られていた。

「例え信長様の左腕であらせられようと、このように立ち入られるのは無礼で御座います…!御用の場合はお取次ぎの上、お越し下さいますようお願い致します」
「これは失礼。近頃城内に住み着いたという白い猫を探している内、こちらまで足を運んでしまっていたようです」
「白い猫などこの離れの棟(むね)にはおりませぬ」

早々に俺をこの場から立ち退かせたいらしい御付きの女中が、息巻いて早口に捲し立てる。志乃姫は相変わらず顔を強張らせ、先程まで散々横柄(おうへい)な態度を取っていた割に、一言も発しようとはしなかった。肩を竦め、適当な言い訳を述べてさらりと躱せば、女中は怪訝な表情を浮かべて眉間を顰める。青褪めている割に、主人を守ろうと気丈に振る舞う様は、まだ褒められた行いといったところだろう。

だが、生憎とこちらも見逃してやるつもりは更々ない。一度目は凪が居る手前、軽い牽制だけで済ませたが、嫉妬で我を忘れるにしても、姫の言動は過ぎたるものがある。

「それは残念。……ところで猫を探している内、少々小耳に挟んだのですが」
「……何で御座いましょう」
「志乃姫のお加減が優れない為、凪姫の調薬した薬を所望されたそうで」
「!!」

勿体ぶった俺の話し方に少々焦れているのだろう。女中の眉間の皺がますます深くなって行くのが視界に映り込んだ。人は追い詰められた際、初めてその本性を露わにする。それと同時に、取り繕っていたものの綻(ほころ)びが見え始めるものだ。

追い詰めるように緩慢な口調で本題を切り出せば、志乃姫の眸が大きく瞠られる。手にしていた薬包紙を軽く握り締め、唇を引き結んだ。女中も俺がいつから話を聞いていたのか、大まか把握したのだろう。先程までの気丈な態度が揺らぎ、眸の奥底に怯えの色が見え隠れしている。

(さて、刻をかけるのも惜しい。早々に片をつけるとしよう)

何せ今日は公務がいつもより早く終わると凪に伝えてある。

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