❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
俺が仕事の仔細を話す事の方が稀だと分かっているからこそ、凪はそこまで深く込み入った事を訊いては来ない。もっとも今回は普段に増して、突き詰められたところで話しはしないだろうが。
「先程まで政宗の御殿で会合だったが、まめなあの男がお前にと土産を持たせて来てな。御殿へ戻ったら食べるといい」
「わあっ、政宗のお土産楽しみです…!光秀さんも一緒に食べてくださいね。どの道半分こしますけど」
話をすり替える為に持ち出した話題だが、他の男からの品でこうも喜ぶ様を見るのは、少々思うところがある。とはいえ、政宗が作った料理や菓子を気に入っている凪へそれを口にするのは、さすがに男として情けないとあり、笑いかけて来る娘へやれやれと肩を竦めるに留めた。二人でひとつのものを分け合う事がすっかり定着している凪が、当然の如く告げる。ああ、と短い相槌を打って肯定すれば、やはり愛らしく嬉しそうに笑みを零した。
「じゃあ私、そろそろ行きますね。光秀さんもお仕事頑張ってください」
「お前もあまり根を詰めすぎるなよ」
「はい!」
志乃姫の元へ薬を届ける途中の凪が、話をおもむろに切り上げる。一声かけて頭をひと撫でした後、すれ違う娘の姿を見送った。凪の後方へ控えていた光忠が俺の前で一度立ち止まり、深々と丁重な所作で一礼する。俺と似通った顔立ちの忠臣へ短く頼んだ、と告げれば菫の眸を伏せた男が再度頭を下げた。
「御意に」
確かな意思のこもった返答を耳にした後、向かう予定だった方向ではなく、別の目的地へ向けて身を翻した。