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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



(……女の嫉妬程、厄介なものはないな)

恐らく姫は今、自身が一体どんな顔をしているのか分かっていないだろう。心の美醜は面(おもて)に表れるものだ。家康が凪へ笑いかけている、その事実に酷い嫉妬心を抱いた様から意識を逸らし、瞼を閉ざす。人を惹きつける者は、時折それに相応する分の悪意をも引きつけてしまう。何とも難儀なものだと内心吐息を零し、まるで対極な二人の姫の姿を視界に映した。


──────────────…


凪の調薬室へ伊奈家の息女、志乃姫が見学に訪れたその後、光忠を引き続き凪の傍へ護衛として残し、予定していた政宗の御殿での会合を終えて再び城内へ戻って来た。政宗から手土産と称して渡された包みを八瀬へ渡し、御殿へ持ち帰らせた後、執務室へ向かう廊下を歩んでいたところで正面からよく知った姿を捉え、足を止める。

「光秀さん…!やっぱり今日は凄く良く会いますねっ」
「こら、廊下を走ると秀吉辺りに小煩く説教されるぞ」

曲がり角から姿を見せた凪が、同じく俺の存在に気付いたらしく嬉しそうに面持ちを綻ばせて小走りでやって来る。その両手に小さな盆を持っているのを視界に入れ、転んでは事だとわざと茶化すようにして注意を促せば、俺の前で立ち止まった凪が眉尻を下げた。

「あ、ごめんなさい……」
「謝る事ではないが、気を付けろ。俺を見掛けて嬉しさのあまり駆け寄って来る姿は、見ていて愛らしいがな」
「そ、そういうのは言わなくていいんです…!」

素直に反省している凪の頭を宥めるようにひと撫でし、緩く笑みを浮かべたままで零す。俺の些細な意地悪にすぐ様眉根を寄せていたが、落ち込ませたかった訳ではない為、それでいい。凪の背後に居る光忠が静かに控え、視線を交わす。菫の眸が何かを無言の内に訴えかけて来ている事を悟り、その原因が娘の手元にある盆だと察すると、問いかけた。

「凪、それはどうした」
「あ、これは志乃姫様のところへ今から届けに行くんです」
「……ほう?」

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