• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



俺の態度で何があったのかを察しただろう光忠も、意思を汲んで口を閉ざしているのは、引いてはそういった理由だ。

「それにしても……凪様は光秀様とも仲が宜しくていらっしゃるのですね。女性の髪へあのように自然に触れられるなど、少々驚いてしまいました」
「え、あ……それはえっと……」

ふと探るように姫が凪と俺を交互に見やる。片手を口元へ添えて首を傾げた様を前に、凪が答えに窮して視線を忙しなく泳がせた。大方、本当の事を言っていいのか分からない、といったところなのだろう。既に信長様からも御許しを頂いた身だ。隠し立てする必要はない。瞼を伏せ、小さく笑いを零した後で傍に居る凪の腰へ腕を回し、そっと抱き寄せた。

「おやおや、別に隠す事でもないだろう」
「わ…っ、光秀さん…!?」

わざと身を近付けさせるようにすれば、人前という事も相俟って凪が羞恥に頬を淡く染める。愛らしいその色へ口元に刻む笑みが自然と深まり、つい唇がすらすらと音を奏でた。

「俺と凪はつい先日、信長様の御前で許嫁の契りを交わした仲です。こうしてこの場へ居合わせたのも、愛しい許嫁の姿をひと目見たいという俺の些末な我儘だったのですが……」

敢えて言葉を切り、驚いている志乃姫へ視線を流す。眸を眇め、わざと緩慢な調子で仄かに低めた音を並べた。

「そのお陰で、凪が怪我を負う事態を防ぐ事が出来ました」
「っ………」

俺の言葉に含みがあると気付いた志乃姫が、微かに唇をわななかせる。言い分に何事かを感じ取ったらしい凪が、傍に立つ俺を見上げて不思議そうに大きな眸を瞬かせた。悠然とした笑みの下に潜む感情をすべて読み取った訳ではないだろうが、牽制代わりにはなっただろう。凪が志乃姫に指されて取り出そうとした薬草は、俺も以前書物で見掛けた事がある。取り扱いに注意が必要だとこの娘が告げていた通り、葉の表面へ直接肌が触れると、爛(ただ)れたような痕になるという。

/ 772ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp