❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
「志乃姫、お初にお目にかかります。私は丹波坂本の統治を信長様より仰せつかっております、明智光秀と申します。これなるは従兄弟にして私の家臣、光忠でございます」
「明智光忠が志乃姫様へご挨拶申し上げます」
「まあ、貴方が信長様の左腕と名高い明智様ですか。光忠様の事も存じ上げておりますよ。丹波平定において多大な功績を上げられたと父より伺っております」
「この身に余る勿体なきお言葉、光栄の至りに御座いますれば」
「二人共胡散臭過ぎ」
「家康公、何か仰いましたか?」
「別に」
凪の隣から一歩前に出て、姫を尊重した物腰で挨拶を述べる。光忠の紹介も含めて並べると、志乃姫の目が軽く瞠られた。俺と光忠を見比べている辺り、大方顔の作りが似通っているとでも思っているんだろう。仄かに眸の奥へ微熱が過ぎったのを認め、凪の傍へ軽く身を寄せた。俺は当然として、光忠もその手の察知は中々に鋭い。あからさまではないが、俺と光忠へ興味を示した様は一目瞭然だった。ぼそりと家康が小さくぼやく。まあその感想には俺も同意だ。
「志乃も以前から調薬や薬学に興味があって、安土に招集されるまではよく駿府(すんぷ)まで習いに来てたから、凪とも話が合うかもね」
「そうなんだね…!じゃあ家康は志乃姫様のお師匠様でもあるんだ」
「まあそういう事。凪とはある意味姉妹弟子になるかな」
家康に調薬や薬学を学んでいた、か。伊奈家は家康の居城がある駿府から、然程距離のない地を治めていると聞き及んでいる。とはいえ姫君の習い事ひとつの為に護衛が刻を割いて日々送迎していたとは考え難い。つまり、その間は駿府城に身を置いていたという事になる。
同じ薬学好きと知り、凪が嬉しそうに眸を輝かせた。如何に彼方殿と仲が良いと言っても、この娘の趣味に心底付き合えるのは安土では家康くらいのものだ。同性で共通の話題が出来るのが純粋に嬉しいのだろう。だが、それに対して志乃姫は、随分と腹に据え兼ねているようだ。そもそも目が笑っていない。