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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



俺が促すよう静かに問うと、仄かな逡巡を覗かせて凪が口を開く。

「私、ちゃんとしたお姫様に会うの初めてだし…一応同じ姫の立場だから、信長様の面目を潰さないようにしっかりしなきゃと思って」

(ああ、そういう事か。これまでは大名やその嫡男ばかりとの会合だったからな。自らが持つ偽りの立場に気後れしているのだろう)

凪の言い分を耳にし、内心で合点がいったとばかりに呟いた。この娘からしてみれば、相手は立派な大名家、それも遠縁とは言えど徳川家に所縁のある姫だ。当然生まれた頃より大名家の姫たる貫禄や所作、教養の一切を身に着けている事だろう。だが、そんなものは瑣末事だ。確かに礼節や姫として身に着けるべき教養はあるだろうが、信長様より与えられた地位に対し、凪自身が他の者達へ気後れする必要など一切ない。

「言った筈だ、お前はいつも通りにしていればそれでいい。下手に気を張って失態を晒すくらいならば、端から取り繕わない方がいいだろう」

凪はただ、自然に振る舞っているだけで人を惹きつける。連れ合いに魅力があり過ぎるのは俺としては少々困りものだが、それが凪の良いところだ。もっと格式が重んじられる公の場であれば話は少々変わって来るものの、今回は城内散策の一環として立ち寄るだけで、取り立てて気負う程の事でもない。肩の力を抜かせる為、わざと揶揄めいた事を述べると、眉尻を下げた些か情けない表情で凪が俺を見上げて来る。

「う、私が失態晒すの前提ですか……」
「まあ、お前の大根役者ぶりはよく分かっているからな。だが、備中の舞台で演じた折には、何も気負わず自然に出来ていた筈だ。何故だか分かるか」
「備中の舞台……あの時は私、ほとんど演技とかじゃなくて、本心からの言葉だったから…」

引き合いに出したのは、以前慶次達と共に旅芸人に扮して向かった西国の一件だ。凪自身に元から台詞を多く与えた訳ではなかったが、あれだけの大人数の前で、凪は自然と白拍子、常磐(ときわ)を演じきる事が出来た。

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