• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



ご機嫌な様子の凪が声色を弾ませる様を、眇めた眸で見つめた。戯れのような言葉の応酬をひとつふたつ交わした後で、もう薬草はすっかり拭われた頬を指先で撫ぜる。妙なところで素直ではないが、こういった喜びを露わにする時は酷く素直になる様がまた愛らしい。

わざわざ表情を読まずとも分かる程に明るく嬉しそうな凪へ吐息混じりの笑いを零した後、触れさせていた片手を引いた。光忠にも俺の意図は伝わっている筈だ。口を挟む事なく控えている従兄弟を一瞥すると、視線がぶつかる。見たところ、凪の周囲で異変は無いらしい。

「そういえば今日、徳川家のお姫様がお客さんとして来てるんですね。さっき光忠さんから聞きました」
「ああ、同盟締結の為の会合に訪れたらしい。俺は特に立ち会ってはいないが、城内の様子から察するに、無事話はまとまったようだな」
「大きな問題とかが起こらなくて良かったです。……それで、もしかしたらそのお姫様がお城を案内される時、調薬室も見学に来るかもしれないって言うから、何だかちょっと緊張しちゃって」
「側近を数人従えてはいるだろうが、何も取って食われる訳ではない。お前はいつも通りにしていればそれでいい」

実はその姫の件でこうして足を向けている訳だが、それを明かす訳にもいかないとあり、他人事のような返答をした。無事に同盟締結の話が為ったらしいと耳にし、凪が安堵を表情へ浮かべる。姫の城内散策の件も既に耳に入れている娘がふと、仄かな不安を覗かせて眉尻を下げた。

これまで凪は何度か信長様に付き添う形で会合の場に身を置いた事こそあるが、いずれも借りてきた猫のように固まっているのが常だ。乱世の生まれでない上、自らが持つ常識では図れないしきたりが存在するとなれば、緊張するのも当然というものだが。ともあれ今回の散策は特に何か気を張るような事もない。気を楽にさせる為に言葉をかけると、やはり煮え切らない様子で濁した。

「確かにそうなんですけど……」
「どうした、何か気になる事でもあるのか」

/ 772ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp