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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



足軽達は大抵、武芸を学んだ事のない農民達がほとんどであり、刀や槍などの武器をまともに握った事のない者など珍しくはない。兵農分離の政策を信長様が打ち立てられて以来、兵への志願者が後を立たないとはいえ、己の身を守れないようでは戦場で使い物になる筈もない。

そういった新兵達へ戦いの基礎を教えるのが慶次の役目だ。俺も演習で鉄砲衆の訓練に付き合う事はあるが、妙な先入観を植え付けない為にも、慶次のような皆に慕われている男が指導した方がいい。俺の冗談とも本気ともつかない物言いに、慶次はいつもの如く明朗な調子で笑い飛ばした。

「そりゃあ確かに事だ!でもよ、生き残る為には卑怯な手だろうが何だろうが覚えておいて損はねえ。今度演習やる時はまた誘ってくれよ。あの紅白戦は中々面白かったぜ」
「ああ、家康にも伝えておくとしよう」

以前は己の命にすら執着の無かった身だが、今はそうもいかなくなった。凪と交わした約束の為、どんな卑怯な手を使ってでも生きて戻ると決めている。潔く死ぬのが武士たる者の誉れと言われている中で、俺のように後ろ暗い手を使う者は、卑怯だなんだと毒を吐かれるのが世の常というものだが、慶次はそうでもないらしい。

武功を求めて一番槍を政宗と競い合う程に好戦的な男だが、命を捨ててでもという考えではないという事か。この男も中々に興味深い。越後の軍師、直江兼続殿ともかねてより親交がある身という点で色々と思うところもあるが、まあ信玄殿の病を治す事に一枚噛んでいる俺が言えた事でもない。

「そういえばその家康だが、ついさっき見た事のねえお姫さん連れて歩いてるのを遠目に見かけたぜ。あれが今日会合するって言ってた徳川所縁のお姫さんか」
「そのようだな。家康達を見かけたのはどの辺りだ」

やはり予測した通り、会合は既に終えているらしい。家康と共に居たという事は、あの男が城内散策の案内をしているのだろう。自ら買って出たとは考え難い。大方、信長様辺りに命じられたといったところか。俺の問いかけに慶次は軽く首を捻り、体ごと視線を俺が向かう予定だった方向へ向けた。

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