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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



同盟締結の話し合いは、両軍の関係性を鑑(かんが)みれば難航するべくもない。となるとこれといって刻はかかるまい。頃合いになるまでは手元の書簡や文を片付けるべく、再び意識を文机上へ向けた。



(……さて、ひと目くらいは件(くだん)の姫へお目通り願うとするか)

障子窓から覗く陽の傾き具合から察するに、いまはちょうど八つ半(15時)頃といった具合か。徳川所縁の大名名代一行が安土城入りしたのは一刻程前の事だ。そろそろ会合も終わり、秀吉が言っていた通り、城内散策でも行っている頃合いだろうと予測を立て、大まか片付け終えた書簡をまとめる。後で九兵衛にでも運ばせる事として、布擦れの音を立てながら立ち上がった。執務室から廊下へ出た後、大まかな予測を立てて足を向ける。

(女中の動きを見る限り、姫が滞在するのは離れの棟(むね)か。如何に同盟締結したとはいえ、妥当だな)

忙しなく動いている女中達が足を向けている方向を読めば、おのずと答えは見えて来る。物々しい気配が漂っていないのを見る限り、やはり滞りなく会合は進んだと見ていいようだ。

「よお光秀、何処行くんだ?もしかして凪のところか?」
「慶次か、まあそんなところだ」

廊下の向こうから派手な柄の着物を独自に着こなしている、上背の大きな男がやって来る。得物である赤柄の槍ではなく、稽古用の槍を担いだ慶次が、こちらに向かって片手を大きく振って来た。

「お前はこれから新兵の稽古か。精が出るな」
「おうよ!今回は結構骨のある奴等ばっかりで鍛え甲斐があるぜ。お前も一度道場に顔出してみたらどうだ?噂の明智光秀が稽古付けてくれるなんて事になったら、あいつ等きっと泣いて喜ぶぞ」
「せっかくの申し出だが、今は遠慮しておくとしよう。お前の鍛えた新兵が、卑怯な手ばかりを覚えては事だろう」

慶次は人好きのする性格や面倒見の良さから、織田軍に戻って以来は新兵の育成を信長様より任せられている事が多い。

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