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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



室内へ足を踏み入れて来たのは、午前中の内に御殿へ使いを出し、呼びつけた光忠だ。障子を静かに閉めた光忠は、文机前に居る俺の傍へ近付き、音もなく両膝をついた。

「御用と聞き及んでおりますが、如何致しましたか」
「午後に信長様への来客がある。徳川に所縁(ゆかり)のある大名家の姫とその家臣達だそうだ。本来は大名本人が来られる予定だったらしいが、訳あってその娘である姫が名代として訪れる」
「……徳川に所縁のある姫ですか。何かきな臭い動きでも?」
「いや、事前の調べでは不審な動きは見られない。同盟締結の会合といったところだ。今宵はこの安土城に滞在される」

光忠は俺が凪と共に登城、あるいは下城出来ない折、あの娘の護衛を兼ねて送迎をさせている。普段は御殿で坂本や丹波の公務、五宿老達への対応を一任している関係で、文机前にかじりついている事が多いが、こうして呼びつけ、用事を申し付ける事も多々ある。取り分け、それが凪に関わる事だと大概予測しているとあり、光忠は思案深く目を伏せた後で俺の言葉を無言のままで待った。

「その姫が、凪の調薬室に興味を寄せていると秀吉から耳にした。単に好奇心ならば構わないが、下らないやっかみの可能性も捨て切れない。俺が迎えに行くまで、あの娘の護衛につけ」
「はっ、御意に」

大まかな状況さえ伝えておけば、この男ならば理解が追いつく筈だ。あくまでも余計な事は言わず、俺の意思を汲んで動く。凪の護衛の任を受けた光忠は、数言交わした後で訪れた時と同じく、足音も立てずにその場を去った。

遠ざかって行く気配を感じると共に、城内が程なくしてざわつき始める。恐らく、今し方話に上がっていた徳川所縁の姫一行が到着したんだろう。信長様を上座にいただき、大広間で催される会合には側近として秀吉と三成、そして仲介役を担う家康がつく算段だ。俺は特にこれといったお役目をいただいてはいないが、それこそが信長様より下されたご命令とも言える。

(自由に動けと仰せならば、遠慮なくこちらも好きにさせて貰うとしよう)

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