❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
ぽつぽつと零される音を聞きながら、喉の奥で小さな笑いを零した。何度も教えてやった筈だが、どうにも凪は俺へ些細な隠し事をしがちだ。幾ら隠し立てしようとも、凪の全てを暴かずにはいられない身としては無意味だという事を、覚えさせておかなければ。片手で娘の頭を優しくひと撫でしてやると、前方と横から胡乱(うろん)な眼差しが注がれる。
どれだけ周りに何と言われようとも、この娘をいじめて甘やかす役目を譲る気はない。すっかり赤くなった凪の頬を指の背で撫でてやる。仄かに熱を灯した事が肌から伝わり、眸を眇めた。
「でもバレちゃったら隠す必要も無いですし……今度皆でみつひでさんに会いに来てくださいね。勿論、光秀さんも一緒ですよ」
「ああ…猫とはいえ、お前の膝を容易に許す訳にもいかないからな。ここはひとつ、挨拶がてらみつひでとやらに牽制でもしておくとしよう」
「光秀さんがみつひでさんに牽制ですか?可愛いですね、それ」
「誰かこのバカップル止めてあげて、切実に」
薄っすら頬を染めたままで凪が楽しそうに笑う。日頃味気なく感じる食事も、こうして他愛ない会話を交わしながら取れば多少は気分も変わるらしい。耳に心地よい凪の笑い声が鼓膜を揺らし、俺の密かに張り詰めている神経を癒やしてくれる。たまにはこんな昼餉も悪くないかと柄にもなく心の中で零し、凪の頬を今一度指の背で優しく撫でやった。
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書庫での昼餉を終えた後、皆がそれぞれの持ち場へと戻った。無論それは俺も例外ではない。城内であてがわれた執務室に戻り、文机の上に積み上がった書簡や文へ目を通す。近頃は主立った戦もなかったとはいえ、問題は山積みだ。未だに四月(よつき)前に起こった信長様暗殺未遂の報が微かに後を引いている節がある。隙あらば寝首を掻き、天下人の地位を狙わんとする輩も多い。各所に飛ばした間諜からの調書へ目を通していると、執務室の入り口に気配を感じて視線を流す。
「光秀様、光忠でございます」
「ああ、入れ」