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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 世の中は九部が十部



半分程食べた握り飯を両手に持ちつつ、口々に謝罪の言葉をかけられた凪が焦燥の素振りを見せる。最終的に答えを求めるよう、俺を振り仰いで来た凪が、怪訝な色を乗せつつ視線で問いかけて来た。口元へ弧を描き、薄っすらとした微笑を浮かべた後で机上に頬杖をつく。

「何やら、薬品庫の辺りに白い猫が住み着いているらしいな」
「!!!?」

俺の発した言葉を聞き、びくりとあからさまに身体を跳ねさせた凪が眸を大きく瞠る。それだけで恐らく先に続く言葉は予測出来ただろう。家康を始めとした面々が謝罪を紡いだ理由にも当然気付いた筈だ。

「そ、それは……えっと、家康が怪我してたのを治療してあげて、そしたら居着いたというか……」
「別に何処へ何が居着いたところで俺は構わない。問題はその猫の名だが……中々に愉快な名がついているらしい。果たして一体誰が名付けたのやら」
「うう………、」

眉尻を下げ、心底困窮している様を露わにした凪が小さく呻く。娘が情けない表情を浮かべる一方で、ますます持ち上がった口角を隠さずにいると、凪の正面に座っている彼方殿が半眼で俺を見ていた。言いたい事などその表情を見れば明らかだが、生憎と止めてやるつもりはない。わざと煽るような物言いをしつつ、隣の愛しい困り顔を存分に眺める。公務の合間に可愛い凪をいじめる事が出来るとは、今日は中々に良い日和らしい。

「……だって、光秀さんに似てたからつい。毛色や目の色もそうですけど、なんかこう、雰囲気が凄く光秀さんだったから」
「お前がどんな名をつけようと、俺が咎める謂れは無い。とはいえ、隠し事はいけないな」
「猫に光秀さんの名前つけたなんて、恥ずかしくて言えませんよ……」
「どうせ隠し立てしたところで、俺にすぐ様暴かれる事になる。この小さなおつむによく覚えさせておくといい」
「それはそれで何か悔しいです……」

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