❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
俺の関心を余所に、三成が気恥ずかしさを滲ませた表情で彼方殿を見た後、指された箇所の米粒を取る。俺は以前よく政宗に呼ばれ、三成と共に食事の面倒を強制的に見られていたとあり、三成が食事中でも中々書物を離さない事を知っているが、彼方殿や凪はそうではない。目を丸くして驚いているらしい様へ、瞼を伏せて小さく笑った。
「んー…美味しい。おかかと醤油がいい感じ」
「ああ、この具は鰹節だったのか」
「そうですよ、海沿いにある傘下の国からの献上品だって言ってました。光秀さん、これ何だと思ってたんですか…?」
「魚だろう、程度の認識はあったぞ」
「じゃあ正解ですね…!」
「またおかしい会話してるよ、このバカップル……」
中の具が少々濃い味だなという印象はあったが、鰹節か。周囲に海がない安土では珍しい品だと思ったが、傘下からの献上品だったとは。こうして綻んだ連れ合いの表情が見れたのは収穫だ。基本的に凪は何でも美味そうに食べるとあり、見ていて飽きない。その表情を見ているだけでむしろ腹が満たされる心地だ。彼方殿が呆れた様を浮かべていたが、見慣れているだろうと黙殺しておく事にする。ひとつ食べ終え、傍に置いていた湯呑茶碗を手にし、それへ口をつけた。軽い音を立てつつ茶碗を戻し、凪へ視線を流すと、僅かに双眸を眇めて見せる。
「時に凪。つい先刻、面白い事を小耳に挟んだんだが」
「え、面白い事…?なんですか?」
「ちょっと、光秀さん」
「……?家康、どうしたの。もしかして家康も知ってる事?」
(当たらずしも遠からずといったところだな)
切り出した話の内容を即座に察し、家康が仄かな焦燥を込めて俺を呼ぶ。当然、ここで止めてやるつもりもない。不思議そうに目を丸くしている無防備な凪が首を捻り、家康を見た。
「……ごめん、凪」
「え!?急にどうしたの?」
「あー、それについては私にも罪があるから。ごめんね!」
「申し訳ありません、凪様」
「み、皆急にどうしちゃったの…!?」