❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
家康は先程の猫の話が後を引いているのか、何処となく気まずそうだ。凪が室内を見回し、書庫内に居る者達の顔触れを確かめた後、笑顔を浮かべる。
「やっぱり皆書庫に居たんだ。言い当てちゃうなんて政宗凄いなあ」
「どういう事?政宗さんがあんたにこれ運ばせるの、頼んだってわけ?」
政宗と言えば、今朝顔を合わせた時に昼餉の用意をしてやると言っていたか。単なる社交辞令で済ませないのがあの男の長所と言うべきなんだろうが。凪が運んで来たのは、恐らくこの書庫内に居る面々に加え、自分の分の昼餉だろう。家康が凪に近付き、手にしていた盆を受け取ると閲覧用の机の上へ置いた。
「今朝言っていたものか。あの男も秀吉に負けず劣らず律儀だな」
「そうです。もしかしたら光秀さんだけじゃなくて、三成くんや家康も書庫に居るかもしれないからって、政宗から昼餉の差し入れです。私と彼方の分もあるよ」
「やった!政宗のご飯って人それぞれの好みに寄せてるから普通に好き」
「わざわざ運んで頂きありがとうございます、凪様」
「どう致しまして。彼方が良ければここで一緒に食べようよ」
「食べよ食べよ!何か社食みたいでいいね」
凪の元まで近付いて行き、労いを込めて髪を撫でてやる。途端嬉しそうに綻んだ娘の表情に眸を眇めている中、皆で政宗から差し入れられた昼餉を食べる事となった。書庫に集まり、この面々で昼餉とは些か妙な気がしなくもないが、わざわざ重たい思いをして運んで来た連れ合いが、楽しそうにしているところに水を差すつもりはない。閲覧用の机は、多くの書物を乗せられるよう、少々広めに設計されている。その周りに置かれている床几(しょうぎ)を寄せて一つの机を皆で囲む形を取り、おもむろに席へついた。
「しゃしょく……とは一体なんですか?彼方様」
「社員食堂の略で、社食ね。要するに働いてる人達用の食事処って感じ。他で食べるより割安だったり、月の給金から食事代が差し引かれたりするんだよね」
「へえ……わざわざそんなものまで作るなんて、変わってるねあんた達の故郷って」