❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
唐突に名を呼ばれ、目を軽く瞬かせる。家康の口から発せられた単語を耳にし、彼方殿が咄嗟に不思議そうな声を零した。
「真っ白な毛並みで、眸が蜂蜜色に近いかららしいよ」
「マジ!?猫に明智さんの名前つけたの?うわ、見たい。ますます見たいんだけど、噂のみつひでさん。今度凪連れて行ってみよー」
「私も猫の光秀様にお会いしてみたいです」
「……別にそれはいいけど、くれぐれもあの人には内緒にしてってあの子に口止めされてるから」
(……なるほど、俺に隠し事とは悪い子だ)
口止めした理由など想像に易いが、隠し事はいけないな。別に咎める理由もないとはいえ、これでひとつ凪をいじめる理由付けが出来たという訳だ。大方調べるべき事も調べ終えたところで、そろそろ俺の存在に気付いていない三人へ声をかける事とする。手にしていた書物を閉ざし、横へ積み上げた。音も立てず静かに立ち上がると、書物の山を抱えてわざと足音を立てれば、家康と三成が即座に反応し、俺が居た棚の影へと意識を向ける。
「口止めされているところ済まないな。生憎と、話はすべて聞かせて貰った」
「げ!?明智さんいつから居たの…!?」
「あんた一体何処から湧いたんですか」
「光秀様も書庫へいらしていたのですね」
三者三様の反応を見せられ、緩やかに口元へ微笑を刻んだ。驚きで目を丸くする彼方殿の傍で、家康が呆れた声色を発している。三成の言葉へ短い相槌を返すと、閲覧用の机の天板へ手にしていた書物を置いた。積み上がった書物を見て、自身の仕事を思い返したのか彼方殿が机の傍までやって来る。
「これは私が返しておくから」
「ああ、わざわざ済まない。宜しく頼む」
「私の仕事だし、お気になさらず。ってか本当、明智さんいつからあんな奥に隠れてたの。気配なさ過ぎ」
俺が本棚から取り出した数冊の書物を見た後、彼方殿が早速それ等を戻す作業へと入った。ただ元あった場所へ書物を戻すだけとはいえ、こうも量があるとそれなりに手間は食う。