❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
人だけでなく、動物を診る事が出来る医者が居るとは驚いた。五百年後の世は余程学びの為の環境が整っていると見える。以前凪から耳にした【がっこう】とやらも、子の為の学び舎だと言っていた。そういった施設を建設するには色々と問題が山積みだが、いずれはそのようなものが多く立ち並び、命の危機に脅かされる事なく学べる世がくれば良い。その為には、まず信長様が掲げる天下布武を成し遂げる事が先決か。
「それで、面倒見てあげてた猫はどうなったの?」
「薬品庫がある棟(むね)に住み着いてる」
「嘘!?見たーい!」
「あいつ、普段は滅多に顔出さないよ。出したとしてもすぐ煙に巻くみたいに居なくなるし」
「まさに典型的な猫って感じの性格な訳ね」
薬品庫がある棟と言えば、凪の調薬室がある近くだ。以前、凪から聞いたところによると、彼方殿は猫派よりは犬派らしいが、基本的には動物全般は嫌いではないらしい。ちなみに凪は種別問わず、毛皮が多く触り心地の良い生き物が好きだと言っていた。確かに、ちまきを撫でている時のあの娘の顔は、好物の甘味を食べている時と同じくらいに蕩けている。薬品庫がある棟に住み着いた猫の話に食いついた彼方殿へ、家康がひとつ微かな溜息を漏らした。
「見に行くのは構わないけど、凪が一緒に居ないと無駄足になる」
「凪様と共に居ると、猫さんが寄って来るという事でしょうか?」
「そういう事。あの猫、俺が知る限りだと凪にしか懐かないし、寄って来ないから」
「動物は相手の心を読むと聞いた事があります。きっとその猫さんも、凪様のお優しい心を感じ取ったのかと」
「にしては凪一人だけって極端だけどね。雄猫が女に懐きやすいとかって言うのはたまに聞くけどさ。どんな猫なの?凪の事だから、懐かれたら名前とかつけてるんじゃない?」
「みつひでさん」
「え?」
「…?」
(ん……?)