❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
どうやらこんな時でも冷静に状況を分析しているらしい光秀が凪を落ち着けてやると、更なる問題を提示して再び視線を流した。彼の言葉を反芻し、そっと光秀に倣って同じ方向へ意識を向けた途端、凪は別の意味でひくりと頬を引き攣らせる。
「な、ななな、何で!!?」
実に本日二度目となる驚愕を隠しきれない声だった。何故なら。
「家康に秀吉、三成…実に代わり映えのしない顔触れだな」
「いや、そんな事言ってる場合じゃないですよ…!」
光秀が名を挙げた、戦国時代を代表するそうそうたる面々が、何故か凪達からほんの僅かに離れてた場所へ倒れ伏していたのである。
「凪さん、光秀さん。良かった、無事みたいだね」
凪がつい突っ込んでしまった刹那、聞き覚えのある声が届いて咄嗟に振り返った。その拍子、視界に映り込んだ本能寺跡と書かれた石碑に、ここが本来凪が居た場所────即ち五百年後の世だという事を本格的に認識したと共に、石碑前に立っていた一人の男の姿を捉えて双眼を見開く。
「佐助くん…!!」
「こんばんは、二人とも」
凪の唯一の現代人仲間、佐助の姿を認め、凪が安堵とも驚きとも取れる声色を漏らす。改めて二人の前へとやって来た佐助は、凪と光秀が無事である事を確認して胸を撫で下ろし、口元へほんの僅かな笑みを浮かべた。
「佐助殿、これは一体どういう事か簡潔に説明してもらおう」
「そ、そうですね。何が何だかさっぱり…」
視界に映り込んだ石碑をちらりと確認し、見たことのない建築物や夜半にも関わらず明るい景色を目の当たりにして、以前確認した凪の荷物の一件を思い起こした光秀が、答えを求めて問いかける。凪としても状況がまったく分からず、困窮した様子で眉尻を下げた。そもそも、光秀と凪は御殿の縁側でのんびりと茶を飲んでいた筈である。二人の疑問を受け、佐助は中指で眼鏡のブリッジをそっと押し上げた。しばし思案した後、憶測の域を出ない仮説をひとまず述べる。