❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
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「───────……、凪」
霞がかった意識の中、誰かにそっと労るよう肩を揺り起こされ、凪は緩慢に瞼を持ち上げた。意識が少しずつ鮮明になるに連れ、随分と懐かしい音が遠くで響いている気がして幾度か睫毛を上下させる。やがてぱちりと焦点が合った瞬間、凪は傍に片膝をついて自分の肩をそっと揺すっている光秀を視界に捉えると、緩慢に身を起こした。
「……ん、光秀さん…」
「凪、怪我はないか」
「大丈夫です。光秀さんは?」
「俺は問題はない。……だが、別の問題が起こっているようだ」
凪が小さく身じろぎしたタイミングで光秀が彼女の肩を優しく支えながら起こし、その背へ腕を添える。倒れ伏していた彼女の身体をざっと確認したところで問いかければ、凪は緩く首を振って笑みを浮かべた。次いで光秀の無事を問いかける。彼は常と変わらぬ穏やかな声で答えたのだが、些か珍しく歯切れ悪い調子で告げたと同時、ちらりと余所へその金色の眸を流した。
「……え?」
そういえば、先程から延々と違和感を覚えていたのだ。ひとまず身を起こして地面に座り込んでは居るものの、乱世の踏み固められている地面よりも何というべきか────硬い。ぱちぱちと双眼を瞬かせた後、何だかとてつもなく嫌な予感がした凪は、そろりと光秀が視線を向けている方向へ首を巡らせた。そして。
「な、ななな、何で!!?」
時刻は恐らく深夜。人通りも少なく閑散としているにも関わらず、目に映るものすべてが懐かしいとすら思えるものへ切り替わっていた。暗闇を照らす街灯と建築物の灯り、信号機と時折通る一方通行の自動車、へたり込んでいる場所は当然コンクリートであり、それ等は何もかも凪が当たり前に受け入れて来た景色である。
思わず驚きの声を発したと同時、光秀が凪を宥めるよう背に添えていた腕を動かして頭を撫でた。咄嗟に光秀を見上げ、言葉を発しようとした彼女は、果たして何と説明していいのか分からず、口をはくはくと動かす。
「落ち着け。この見慣れない景色も問題だが、他にも大きな問題が文字通り転がっている」
「大きな、問題?」
「ああ」